海堂尊「夢見る黄金地球儀 (ミステリ・フロンティア)」

mike-cat2007-11-14



〝やあ、八年ぶり。
 ところでお前、一億円欲しくない?〟
東京創元社ミステリ・フロンティアに、
チーム・バチスタの栄光」の海堂尊が登場。
〝町工場の技術と頭脳を駆使した
 華麗なる黄金奪取作戦。
 曲者たちが繰り広げるゲームは
 二転三転、驚愕の展開へ。〟
これまでの医療エンターテインメントから一転、
今回のお題となるのは、情け無用のコン・ゲームだ。


舞台はおなじみ、首都圏の外れに位置する桜宮市。
悪評高いバブルの落とし子「ふるさと創生基金」で創られた、
黄金の地球儀も、今では人気のない水族館でひっそり展示されるばかり。
桜宮市で鉄工所の二代目として、日々奔走する平沼平介のもとへある日、
八年ぶりに現れた悪友「ガラスのジョー」が、ひょっこりと姿を現す。
「ところでお前、一億円欲しくない?」
トラブルメーカーの奴が持ち掛けたのは、驚愕の地球儀強奪計画だった―


トラブルを呼び込む体質の主人公、平沼平介に、
そのトラブルを持ち込む天才、ガラスのジョーこと久光穣治、
天才的な発明家だが、ネーミングセンスはからっきしの一代目、平沼豪介、
そしてどこか腹黒い桜宮市の悪人、じゃなかった役人たち…
オビにもある通りの、まさに曲者連中が勢ぞろいといった風情である。


盗み出すのは、バブルの落とし子「黄金の地球儀」。
時価1億円を越えるお宝には定番の、厳戒の警備体制と思いきや…
という、ひねった設定もなかなか悪くない、コメディ・タッチのミステリー。
それをあの海堂尊が手がけるのだから…
と、期待して読み出してはみたのだが、少々期待外れといったところか。


キャラクター先行の小説作りは、海堂作品の常道ではあるが、
今回に限って言えば、あのグッチー田口やヒクイドリ白鳥のように、
その行動だけでも一種のキャラクター小説に仕上げられるような魅力がない。
トラブル体質といっても、主人公・平介はやはり凡庸だし、
あやしげな風来坊「ガラスのジョー」はどこか苛立つキャラクター。
この2人をメインに据えていることもあり、全体的に空回りの印象は強い。


ストーリー展開も、二転三転、鮮やか!
と、思わせたい気持ちは痛いほどに伝わってくる。
しかし、少々ひねくりすぎて、爽快感に欠ける割には、
容易にその先の想像がつくという、なんとも締まりのないストーリー。
ご都合主義、という言葉も思い浮かぶ安易な解決も、
あの海堂尊の作品、と考えると、許容範囲を越えている。
まあ、正直なところ、どちらかといえば失敗作の範疇なのだろうか。
もちろん、無名の作家がこれを書いていたら、
「おっ、なかなか悪くない」という程度のクオリティではあるのだが…