ジェフリー・ディーヴァー「ウォッチメイカー」

mike-cat2007-11-08



〝ライム、史上最強の敵に挑む。〟
映画化もされた「ボーン・コレクター」から始まった、
ディーヴァーのリンカーン・ライム・シリーズ最新作。
〝その犯罪計画は時計のように緻密、精緻。〟
現場にアンティーク時計を置いていく連続殺人犯と、
リンカーン・ライムの想像を超える駆け引きが展開する。


アンティークの時計を残す残忍な連続殺人犯「ウォッチメイカー」。
ことごとく警察の裏をかく手口に、ライムたち捜索班も手を焼いていた。
科学捜査と一見相容れない「キネシクス」の専門家、
キャサリン・ダンスも捜査班に加わり、証拠を残さない犯人を追う。
一方、自殺に偽装された会計士の死を探っていたアメリア・サックスは、
捜査の中で、NY市警の大がかりな腐敗にたどり着いていた―


どんでん返しに次ぐどんでん返しでおなじみのこのシリーズ。
今回は、史上最強の敵「ウォッチメイカー」を相手に、
あのライムが大苦戦、というメインの筋立てに加えて、
証人や容疑者のボディランゲージや言葉遣いを観察し分析する、
「キネシクス」と、ライムが信奉する科学捜査とが対決する。
ちなみにこのキネシクスの専門家キャサリン・ダンスを主人公に、
〝The Sleeping Doll〟というスピンオフも作られるというだけでも、
そのキャラクターにどれだけ存在感があるか、が伝わってくる。


さらにライムの相棒にして私生活のパートナー、アメリア・サックスも、
警察の腐敗に絡んだもうひとつの事件を追う中で、
大きなダメージを追う、というなかなか際どい展開もあり。
どんでん返しがあることを前提に進むシリーズだけに、
さすがにマンネリ化するかと思いきや、まだまだパワーは健在だ。


もちろん、肝腎のウォッチメイカーだけでも魅力は十分。
ほとんど有効な証拠を残さない犯人に、ライムの気持ちが揺れる。
物理的な犯罪においては、必ず犯罪者と現場の間で、
物的証拠の交換が起こる、というロカールの交換原則を挙げ、もの思う。
〝ライム自身と同じくらい、あるいはライム以上に
 優れた頭脳を持つ希有な犯罪者は存在するのか、
 その人物が犯罪を犯しながらもロカールの原則を覆すことができるほど
 科学捜査の知識を身につけるということはありえるのか、
 いっさいの証拠を残さず、
 現場からいっさいの証拠を拾わないというような芸当は現実に可能なのか。〟
犯人とライムの死闘は、科学捜査の限界への挑戦でもあるのだ。


いいかげん、ディーヴァー一流のツイストにも慣れたかと思いきや、
それはそれで、どうひねってくるのかが、見所になっている。
ドラマ部分も含め、シリーズの一つの転機ともなりそうな作品。
単独でも十分楽しいが、今後の展開もますます楽しみである。