恩田陸「まひるの月を追いかけて (文春文庫)」

mike-cat2007-10-13



?祝・山本周五郎賞受賞?
中庭の出来事」で、同賞を手にした作者の、03年作品。
?恩田ワールド全開の傑作ミステリー?
古の都、奈良を舞台に展開する、探求の旅。
?失踪した男を捜しに、奈良への旅が始まった――。?


異母兄の研吾が奈良で消息を絶った。
その報せをたずさえ、突如姿を現した優佳利と、旅に出る?私?。
二度しか会ったことのない兄の彼女とともにめぐる奈良。
藤原京跡、明日香、橿原神宮
そして明らかになる、数々の秘密―


夜のピクニック」の恩田陸とともにめぐる奈良。
これがまた、なかなか味わい深い。
物語の中で交わされる会話で、こんな言葉が出てくる。
「生者と死者が肩を寄せ合って暮らしてるんだわ。
 それも、随分昔の人と、今の人と」
なるほど、奈良を歩いたことがある人なら、なるほどと頷ける言葉である。
京都とはまた違う、素朴さと素っ気なさ。
そんな奈良が舞台だからこそ、このミステリーが輝きを増す。


冒頭で描かれるのは、
ずっと会いたかったあの人に、近づいた瞬間に目が覚める、切ない夢。
このつかみだけで、もうこの物語の成功はなかば約束された感じだ。
この淡く、切ない感覚を引きずったまま、秘密を追いかける感覚。
まさしく、恩田ワールド全開といったところなのだろう。


研吾の行方を追う?私?と優佳利の微妙な関係もいい。
?私と彼女の位置関係は、ナナメの点線というところだろうか。
 私と研吾以上に中途半端な位置関係。
 それでいて、赤の他人なのに、どこか生々しい。
 そして、私と彼女を繋ぐ線になるはずの研吾は今ここにいないのだ。?
そんな二人が追う、研吾の秘密が、読む者の興味をかき立てる。
最後に明かされる、その秘密。
思わず頭を抱えてしまいそうになる、そのショックが、また後を引く。
どこまでも印象深い1冊なのである。


Amazon.co.jpまひるの月を追いかけて (文春文庫 お 42-1)