恩田陸「まひるの月を追いかけて (文春文庫)」
?祝・山本周五郎賞受賞?
「中庭の出来事」で、同賞を手にした作者の、03年作品。
?恩田ワールド全開の傑作ミステリー?
古の都、奈良を舞台に展開する、探求の旅。
?失踪した男を捜しに、奈良への旅が始まった――。?
異母兄の研吾が奈良で消息を絶った。
その報せをたずさえ、突如姿を現した優佳利と、旅に出る?私?。
二度しか会ったことのない兄の彼女とともにめぐる奈良。
藤原京跡、明日香、橿原神宮…
そして明らかになる、数々の秘密―
「夜のピクニック」の恩田陸とともにめぐる奈良。
これがまた、なかなか味わい深い。
物語の中で交わされる会話で、こんな言葉が出てくる。
「生者と死者が肩を寄せ合って暮らしてるんだわ。
それも、随分昔の人と、今の人と」
なるほど、奈良を歩いたことがある人なら、なるほどと頷ける言葉である。
京都とはまた違う、素朴さと素っ気なさ。
そんな奈良が舞台だからこそ、このミステリーが輝きを増す。
冒頭で描かれるのは、
ずっと会いたかったあの人に、近づいた瞬間に目が覚める、切ない夢。
このつかみだけで、もうこの物語の成功はなかば約束された感じだ。
この淡く、切ない感覚を引きずったまま、秘密を追いかける感覚。
まさしく、恩田ワールド全開といったところなのだろう。
研吾の行方を追う?私?と優佳利の微妙な関係もいい。
?私と彼女の位置関係は、ナナメの点線というところだろうか。
私と研吾以上に中途半端な位置関係。
それでいて、赤の他人なのに、どこか生々しい。
そして、私と彼女を繋ぐ線になるはずの研吾は今ここにいないのだ。?
そんな二人が追う、研吾の秘密が、読む者の興味をかき立てる。
最後に明かされる、その秘密。
思わず頭を抱えてしまいそうになる、そのショックが、また後を引く。
どこまでも印象深い1冊なのである。