シャーリイ・ジャクスン「ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)」
〝皆が死んだこのお城で、あたしたちはとっても幸せ。〟
じわじわと、しかし強烈ににじみ出る悪意―
「くじ (異色作家短篇集)」の作者が送る、異色ホラー。
〝すべての善人に読まれるべき、
本の形をした怪物である。――桜庭一樹〟
ざらりとした舌触り、そして魅惑的なまでに不快な読後感。
〝“魔女”と呼ばれた女流作家が、超自然的要素を排し、
少女の視線から人間心理に潜む邪悪を描いた傑作〟
〝あたし〟の名前は、メアリ・キャサリン・ブラックウッド。
ほかの家族が皆殺しにされたこの屋敷で、
家族の最後の日を再現した本をしたためるジュリアンおじさん、
そして姉のコニーとともに静かに暮らしている。
まことしやかな噂をささやき、〝あたし〟を敵視する村人たち。
悪意に満ちた世界で、支え合う〝あたし〟たちの世界。
だが、突如姿を現した従兄のチャールズが小さな波紋が投げかける。
毒で家族を皆殺しにされた一家。
だが、犯人として疑いがかかったのは、当の娘だった。
事件を揶揄するような歌を歌い、
あからさまな悪意を投げかける村人たち、そして、親切めかした友人…
いかに世界が悪意に満ちているのか、その描写が何とも言えない。
解説で桜庭一樹が?虫酸が走るような不快感?が癖になる、
と書いているが、まさしくそんな感じである。
なかなか序盤は話が見えず、のめり込めないのが残念だが、
ややオチが見えてきた中盤以降は、
その見えている感じすらいい感じで作用する描写がさえる。
そして、最初にも書いた通り、後を引くような、独特の読後感。
不快だけど、何とも言えない妙味があって、これがまたいい。
じっくり味わいつつ読み進めたい、1冊である。