樋口有介「風少女 (創元推理文庫)」
〝奇麗だった彼女は、
死んだときも奇麗だったはず〟
創元推理文庫で再収録が進む、
樋口有介の1990年作品を大幅改稿。
〝初恋の女性の死を巡る、僕の探偵行〟
寒風吹きすさぶ前橋を舞台に、
初恋の人の死をめぐる、感傷と探求の旅が始まる―
赤城おろし吹き荒れる2月、
父の危篤の報せを受け、故郷前橋へと戻った斎木亮は、
中学時代の初恋の女性、川村麗子の妹・千里と出会う。
思いがけずもたらされたのは、麗子の死という事実。
亮の知る麗子からは想像できないその死をめぐり、
疑問を感じた亮は、千里とともにかつての友人を訪ね歩く―
初恋の人…
この切ない響きを、そのまま小説にしたような物語だ。
手ひどくふられた切ない思い出を追いかける。
彼女は、睡眠薬を服用し、風呂場で全裸で倒れていた。
その意外な死にざまは、亮のまぶたに残る残像とは、かけ離れていた。
かつての親友はいう。
「六年もすりゃあみんな変わるんさ。
俺だってバイクやめたし、エリートやめたやつだっているし…
だからよう、ふつうのつまらない女になって、
風呂場で溺れて死ぬやつだって出てくるわけよ。
おまえがこだわるのはわかるけど、
人生ってよう、そういうもんじゃねえのかなあ」
だが、亮はどうしても納得できない。
「おれは昔、
常識では考えられないぐらい彼女のことが好きだった。
彼女は常識では考えられないぐらい奇麗だったし、
死んだ二月六日もたぶん、
常識では考えられないぐらいきれいなはずだった」
だからこそ、切ない想いを胸に、彼女の跡を追い掛ける。
過去の恋への切ない想い、そしてこだわり、
年下の千里とのくすぐったくなるようなほのかな関係、
妹や姉ら、周囲を固める女性たちとの生き生きとした交流。
どれをとっても、樋口有介作品でおなじみのモチーフだ。
文庫解説で法月倫太郎が、
デビュー作の「ぼくと、ぼくらの夏」が原点ならば、
この作品はより樋口有介のスタイルを確立した「鋳型」だ、
と書いているが、なるほど、と手をたたいてしまった。
とはいえ、デビュー第2さくならではの、
手慣れすぎていない、かすかなぎこちなさは感じられる。
もちろん、それはむしろ好ましい印象で、伝わってくる。
大幅改稿はしても、そうした部分は大事にしたのだろうと想像する。
ミステリとしては、決して難度の高い作品とは言い難いが、
いかにも樋口有介作品らしく、読み味志向でグイグイしみ込んでくる。
ファンとしては見逃せない傑作、そういって間違いないはずだ。