樋口有介「風少女 (創元推理文庫)」

mike-cat2007-10-03



〝奇麗だった彼女は、
 死んだときも奇麗だったはず〟
創元推理文庫で再収録が進む、
樋口有介の1990年作品を大幅改稿。
〝初恋の女性の死を巡る、僕の探偵行〟
寒風吹きすさぶ前橋を舞台に、
初恋の人の死をめぐる、感傷と探求の旅が始まる―


赤城おろし吹き荒れる2月、
父の危篤の報せを受け、故郷前橋へと戻った斎木亮は、
中学時代の初恋の女性、川村麗子の妹・千里と出会う。
思いがけずもたらされたのは、麗子の死という事実。
亮の知る麗子からは想像できないその死をめぐり、
疑問を感じた亮は、千里とともにかつての友人を訪ね歩く―


初恋の人…
この切ない響きを、そのまま小説にしたような物語だ。
手ひどくふられた切ない思い出を追いかける。
彼女は、睡眠薬を服用し、風呂場で全裸で倒れていた。
その意外な死にざまは、亮のまぶたに残る残像とは、かけ離れていた。


かつての親友はいう。
「六年もすりゃあみんな変わるんさ。
 俺だってバイクやめたし、エリートやめたやつだっているし…
 だからよう、ふつうのつまらない女になって、
 風呂場で溺れて死ぬやつだって出てくるわけよ。
 おまえがこだわるのはわかるけど、
 人生ってよう、そういうもんじゃねえのかなあ」


だが、亮はどうしても納得できない。
「おれは昔、
 常識では考えられないぐらい彼女のことが好きだった。
 彼女は常識では考えられないぐらい奇麗だったし、
 死んだ二月六日もたぶん、
 常識では考えられないぐらいきれいなはずだった」
だからこそ、切ない想いを胸に、彼女の跡を追い掛ける。


過去の恋への切ない想い、そしてこだわり、
年下の千里とのくすぐったくなるようなほのかな関係、
妹や姉ら、周囲を固める女性たちとの生き生きとした交流。
どれをとっても、樋口有介作品でおなじみのモチーフだ。
文庫解説で法月倫太郎が、
デビュー作の「ぼくと、ぼくらの夏」が原点ならば、
この作品はより樋口有介のスタイルを確立した「鋳型」だ、
と書いているが、なるほど、と手をたたいてしまった。


とはいえ、デビュー第2さくならではの、
手慣れすぎていない、かすかなぎこちなさは感じられる。
もちろん、それはむしろ好ましい印象で、伝わってくる。
大幅改稿はしても、そうした部分は大事にしたのだろうと想像する。
ミステリとしては、決して難度の高い作品とは言い難いが、
いかにも樋口有介作品らしく、読み味志向でグイグイしみ込んでくる。
ファンとしては見逃せない傑作、そういって間違いないはずだ。


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