斎藤純「銀輪の覇者」

mike-cat2007-09-27

銀輪の覇者 上 (ハヤカワ文庫 JA サ 8-1)銀輪の覇者 下 (ハヤカワ文庫 JA サ 8-2)


「深夜プラス1」に比肩する興奮!
 熱き思いが時代を駆ける自転車冒険小説〟
2005年版の「このミステリーがすごい」で5位に輝いた、
斎藤純の代表作が、ついに文庫化。
〝戦前の日本に、ツール・ド・フランスに負けない
 大ロードレースで死力を尽くした男たちがいた。〟


時は戦争の足音近づく、昭和初期―
下関から青森まで、本州を縦断する大日本サイクルレースが開催された。
競技用ではなく、黒塗りの実用車を用いた異色の賞金レースは、
東京五輪を前に、アマチュアリズムという名の下の弾圧が、
強く吹き荒れた自転車界にあって、異端でもあった。
強豪ドイツに、財閥お抱えチームだけでなく、
素人同然の有象無象も、一獲千金を狙い、レースに集う。
詐欺師との噂もある主催者の周辺にも、さまざまな陰謀が渦巻いていた―


近藤史恵の傑作、「サクリファイス」の興奮も醒めやらぬ中、
自転車競技を題材にした傑作と誉れ高い1冊に手を出してみる。
いや、熱いのなんのって、という感じである。
思わず頬を熱い涙が伝ってしまう、そんな感動の物語だ。


主人公は、まったくの素人選手をまとめ上げ、
瞬く間に優勝戦線に名乗りを挙げた、チーム門脇の響木健吾。
かつては売れっ子の紙芝居屋としてならし、
音楽への造詣も深い、多くの謎に包まれた経歴。
そして、胸に秘めた、ある目的。
その響木の物語が、本州縦断の大レースとともに、大きな縦軸となる。


だが、魅力的なキャラクターは響木だけにとどまらない。
あやしげな江戸弁を使い、周囲を笑いに包む薬売りの越前屋平吉。
響木に反発を覚えながらも、チームに加わった左官屋の小松丈治。
類い希な馬力で、チームを支える現在失業中の望月慈介。
選手だけを取ってみても、バラエティあふれる人材がずらりとそろう。


加えて、怪しさナンバー1の主催者、山川正一の存在がある。
詐欺師と噂され、様々な圧力に苦しみながらも、レースへ情熱を注ぐ。
また、山川の動きを注視する新聞記者に、本場フランスの記者。
多くの登場人物たちのサイドストーリーを絡み合わせながら、
類い希な感動のドラマへより合わせていくその手腕はまさしく絶妙だ。


もちろん欠かせないのは、自転車競技そのものの魅力。
サクリファイス」でも取り上げられた、
勝利のために注がれる情熱、かけがえのない犠牲、そして…
何のために走るのか、その問いの答えを探すべく、
ただひたすらにページをめくり、物語にのめり込んでいく。
そしてたどり着く感動は、何ものにも代えがたいほど、熱い。
サクリファイス」とともに、まさしく必読の1冊なのである。


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