今邑彩「つきまとわれて (中公文庫)」
〝おまえが犯人だ〟
「いつもの朝に」の今邑彩による、
〝摩訶不思議な異色の短編集〟
ゆるやかに連なる8編のミステリが、
微妙な悪意と皮肉な運命、苦い余韻をもたらす。
冒頭の「おまえが犯人だ」は、
青酸カリ入りのチョコレートで毒殺された妹をめぐる犯人探し。
妹に恋心を寄せていたふたりの青年の、どちらが犯人なのか―。
一筋縄ではいかない、ひねりが効いた一編だ。
「帰り花」は、
幼い頃に家を出た実母の、幻の記憶をめぐる一編。
桜の木の下、紫のコートに身を包んだ母の姿は何だったのか―。
表題作「つきまとわれて」は、
恵まれた結婚に突然背を向けた姉の家で見つけた脅迫状の話。
「幸福な結婚などできると思うなよ。
塩酸事件を忘れるな。一生おまえにつきまとってやる」
美しい姉に降りかかった過去の事件が、現在に影を落とす。
「六月の花嫁」は、
不思議な出会いがきっかけの結婚をめぐるミステリ。
ロマンティックな結婚とは不似合いの、とんでもない秘密とは―
「吾子の肖像」は、
ある画家が残した、母子の肖像画に隠された秘密を探る。
ある数奇な運命と、いまも未練を残すかつての夫婦の物語。
「お告げ」は、
同じマンションの住人に、次々と恐ろしいお告げをもたらす女性の話。
その能力には、どんなからくりが隠されているのか―
「逢ふを待つ間に」は、
懐かしのゲーム「ミスト」や「アクアゾーン」にまつわる不思議な物語。
コンピューターの中に創り出した幻の結婚生活が生み出した奇跡とは―
そして最終編「生霊」は、
まだ生きている少女の霊が、ライバルの友人宅を訪れる怪奇譚。
この本に収録の、ある短編へと回帰するラストが絶妙な一編だ。
以上8編は、さらりと読ませながらも、味わい深いさすがの一冊。
長らく積ん読にしっぱなしだったが、読んでよかったと、ひと安心だ。
いまさらながら、これからまた、
今邑彩を読み始めたいなと決意を新たにするのだった。