今邑彩「つきまとわれて (中公文庫)」

mike-cat2007-09-24



〝おまえが犯人だ〟
「いつもの朝に」今邑彩による、
〝摩訶不思議な異色の短編集〟
ゆるやかに連なる8編のミステリが、
微妙な悪意と皮肉な運命、苦い余韻をもたらす。


冒頭の「おまえが犯人だ」は、
青酸カリ入りのチョコレートで毒殺された妹をめぐる犯人探し。
妹に恋心を寄せていたふたりの青年の、どちらが犯人なのか―。
一筋縄ではいかない、ひねりが効いた一編だ。
「帰り花」は、
幼い頃に家を出た実母の、幻の記憶をめぐる一編。
桜の木の下、紫のコートに身を包んだ母の姿は何だったのか―。


表題作「つきまとわれて」は、
恵まれた結婚に突然背を向けた姉の家で見つけた脅迫状の話。
「幸福な結婚などできると思うなよ。
 塩酸事件を忘れるな。一生おまえにつきまとってやる」
美しい姉に降りかかった過去の事件が、現在に影を落とす。


「六月の花嫁」は、
不思議な出会いがきっかけの結婚をめぐるミステリ。
ロマンティックな結婚とは不似合いの、とんでもない秘密とは―
「吾子の肖像」は、
ある画家が残した、母子の肖像画に隠された秘密を探る。
ある数奇な運命と、いまも未練を残すかつての夫婦の物語。


「お告げ」は、
同じマンションの住人に、次々と恐ろしいお告げをもたらす女性の話。
その能力には、どんなからくりが隠されているのか―
「逢ふを待つ間に」は、
懐かしのゲーム「ミスト」や「アクアゾーン」にまつわる不思議な物語。
コンピューターの中に創り出した幻の結婚生活が生み出した奇跡とは―
そして最終編「生霊」は、
まだ生きている少女の霊が、ライバルの友人宅を訪れる怪奇譚。
この本に収録の、ある短編へと回帰するラストが絶妙な一編だ。


以上8編は、さらりと読ませながらも、味わい深いさすがの一冊。
長らく積ん読にしっぱなしだったが、読んでよかったと、ひと安心だ。
いまさらながら、これからまた、
今邑彩を読み始めたいなと決意を新たにするのだった。


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