海堂尊「ブラックペアン1988」

mike-cat2007-09-23



〝驚愕手術の結末!〟
チーム・バチスタの栄光」、
ジェネラル・ルージュの凱旋」の著者最新作。
シリーズでもおなじみの、
東城大学病院を舞台にした、
メディカル・エンタテインメントの傑作がまたも誕生した。
〝外科研修医世良が飛び込んだのは君臨する
 “神の手”教授に新兵器導入の講師、
 技術偏重の医局員ら、策謀渦巻く大学病院……
 大出血の手術現場で世良が見た医師たちの凄絶で高貴な覚悟。〟


昭和、そしてバブル末期の1988年。
研修医として、東城大学病院に配属となった世良雅志。
そこは陰謀と因縁渦巻く、魑魅魍魎の世界だった。
天皇とも称される、絶対的な権威、佐伯教授に、
天下の帝華大学から追放された小天狗、高階講師、
技術ではピカイチの手術室の悪魔、渡海医師と、
クセのある面々に囲まれながら、成長を続ける世良だったが、
新技術の導入、そしてペアン(止血鉗子)をめぐる因縁が、
東城大学病院を、大きな混乱に陥れようとしていた―


鮮烈なデビュー作、「チーム・バチスタ」で脚光を集めた後、
ナイチンゲールの沈黙」、「螺鈿迷宮」と、期待を裏切った海堂尊
しかし、「ジェネラル・ルージュ」で華麗に凱旋を果たした作者が、
またも一気読み必至の傑作を世に送り出してくれた。
舞台は20年前の東城大学病院。
シリーズで登場する、古狸、高階院長(当時講師)に藤原看護師(当時婦長)、
眠り猫の猫田師長(当時看護婦)に、「愚痴外来」のグッチー先生、
「ジェネラル・ルージュ」の速水、島津、花房…
若い時代のおなじみの面々が次々に登場する、
東城大学病院もののかなり濃ゆ〜いスピンオフである。


描かれるのは、手術室の「阿修羅」と「悪魔」による、
「涅槃の東西代理戦争」に振り回され、こづき回され、
外科医としての足場を固めていく新人研修医、世良の成長物語、
そして、院内政治の中で蠢く過去の因縁がもたらすサスペンス。
この2つの縦軸を巧みに絡み合わせ、スピーディーな展開を繰り広げつつも
横軸としてのスピンオフ的な楽しみを提供する、というなかなかの荒技。
だが、それでいて過去の失敗作のような破綻がない点がひと味違う。


まだまだ青臭さが残る世良の視点を中心に描かれるため、
医療にまつわるさまざまなメッセージも、鮮烈に伝わってくる。
「どんな綺麗ごとを言っても、技術が伴わない医療は質の低い医療だ。
 いくら心を磨いても、患者は治せない。
 外科医にとっては手術技術、それがすべてだ」
「間違っている。心なき医療では決して高みにはたどりつけません」
永遠の命題ともいえる問いに、若き高階が、田口が、速水が挑む。


クライマックスに至ってからの展開は多少読めなくもないが、
それでも流麗なリズムに乗せられながら、物語世界に浸る気分は最高。
「バチスタ」「ジェネラル〜」と比べても、
完成度だけで評価するなら、もしかしたら上かも知れない。
「ジェネラル〜」からの、あまりに早い刊行ペースに、
「またか…」と不安を覚える向きもあるだろうが、心配は無用である。


Amazon.co.jpブラックペアン1988