マイケル・クライトン「プレイ −獲物」

mike-cat2007-09-25

プレイ―獲物〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)プレイ―獲物〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)


〝全米で200万部のブロックバスターを記録〟
ジュラシック・パーク」「スフィア」を始めとする、
テクノロジーSFの巨匠、マイケル・クライトンの02年作品。
〝はたして人類は生き残れるのか!?
 テクノロジーの暴走に警鐘を鳴らし続ける巨匠が放つ
 未曾有のハイテク・パニック・サスペンス〟
野生化した「ナノテク・マシン」が人間に襲いかかる。


サンノゼ在住のジャックは、失業中のプログラマー
次の職を探しつつ、3人の子供の世話に追われる毎日だったが、
ナノテクを開発するザイモス社に勤める妻ジュリアの様子がどうもおかしい。
まるで別人のように振る舞う妻に何が起こったのか―
次々と起こる異変の原因を調べ始めたジャックが耳にしたのは、
製造プラントから開発中のナノテクマシンが流出した、というニュースだった…


「ジュラシック〜」の恐竜は言うまでもなく、
最新作「NEXT」では遺伝子テクノロジー「恐怖の存在」では環境問題のまやかしを取り上げたクライトン
こちらの作品では、まるで捕食者のように人間に襲いかかる、
野生化したナノテクマシンが、読む者を恐怖に陥れる。


何しろナノテクなので、そのサイズを生かしてどこにでも入り込んでくるし、
スウォーム(群れ)となったマシンたちは、
ヒッチコックの「鳥」や、バッタの群れを思わせる行動パターンを取る。
題名の?PREY?とは、マシンにプログラムされた、
「捕食者−被食者」の関係に由来するのだから、恐ろしさは増すばかり。
未曾有の恐怖とはよくいったもので、
病原菌のアウトブレイクや、宇宙人なんかとはまた違った現実感で迫ってくる。


このテのテクノロジーに詳しいヒトには、それなりに粗も目立つようだが、
読んでいる限り、何となく納得できるような説得力は十分ある。
クライトン一流の(訳者の酒井昭伸によるところも相当大きいだろうが…)、
散々ハイテクがらみの専門用語やウンチク、社会情勢などを盛り込みつつも、
物語の面白さやスピード感を阻害しないという絶妙のバランス感だ。
これだけ複雑な設定を織りこみながら一気読みさせる技は、やはりすごい。


序盤から終盤にかけてのスケール感がすごいだけに、
クライマックスでのやや尻すぼみ感は否めないが、
ちょっとホラーじみた不気味さなんかもあって、読後感は悪くない。
「エアフレーム」「タイムライン」といまいち作品が続いたため、
初めてパスしたクライトン作品だったのだが、
いまにしてみると、読んでおいてもよかったな、とも思う。
クライトン好きなら、間違いなく楽しめる佳作なのだった。


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