黒川珠々「楽園に間借り」
〝次に来るのはヒモ文学で決まり!〟
第3回野生時代青春大賞受賞作。
〝“尻に××××を持つ男”
(気になる人は12ページ参照を)
百輔の悩み多きヒモライフに笑いっ放し。
キャラ立ちナンバーワンのデビュー作、
ドラマ化熱烈希望。 by.大森望〟
男の憧れ、ヒモの生活を描く、青春グラフィティ。
〝生きるためにせせこましく働いたりしないなんて、
まるであっぱりな人生観を持った思想家のようではないか。
そう自分を励ましてみるおれは吉井百輔、二十七歳。
頭痛持ちだが体はいたって健康で、マイカー、マイブームは共になし。
無能無資格無宗教で、なにより完全無欠の無職である。〟
自慢してるんだか、卑下してるんだか、
わからない自己紹介で始まるのは、「ヒモ」の百輔の物語。
看護士の恋人、梨花の家に居候し、
ご機嫌をうかがいつつ、お小遣いをもらって暮らす毎日だ。
鬼畜系のヒモ友達、累や、大の苦手の姉、千雪に囲まれ、
「楽園に間借り」した百助の、何となしな日々…
大森望の惹句がどうにも納得いかない。
××××は、格別そんなすごいエピソードでもないし、
笑いっ放しと絶賛の、ヒモライフの描写は凡庸のひとこと。
キャラ立ちナンバーワン、だって、この程度で? という感じ。
正直なところ、こんな退屈な本は久しぶりである。
何より、百輔のキャラクターがいただけない。
単なる安いヒモ、である。語る美学はやたら薄っぺら。
かといって、その薄っぺらさをあえて面白おかしく描いたわけでもない。
単に、その作者の安っぽい美学の中で、
深みたっぷりに書いたつもりらしい、そんな気取りがやたら鼻につく。
ヒモって、情けなくもお気楽な感じがいいのに、その味が出せていない。
登場人物たちとのダイアログもだらだらと長いだけ。
バカの会話をそのまま文章に起こしたような感じは、
リアルといえばリアルなのかも知れないが、
それをわざわざ読みたいと思えるほど、こちらもヒマじゃない。
おまけにストーリーそのものも散漫で、気持ちは物語に少しも入っていかない。
どうにも表現が難しいのだが、ひとことで言えば、
非常に出来の悪いモラトリアム小説、というところだろうか。
この程度の小説を大賞なんかに選んでしまった理由は、
単に同じ会社の発行する雑誌と名前が同じ(Chouchou)だから?
それとも、この程度の薄っぺらい話がいまっぽいから?
選考委員が、バカ文化に迎合しているようで、とても不快である。
やや繰り返しになるが、ホント久しぶりに買って損した、と思う1冊だった。