大崎梢「片耳うさぎ」

mike-cat2007-09-13



〝片耳うさぎに気をつけろ。
 屋敷に入れるな。入れれば人が殺される。〟
配達あかずきん (ミステリ・フロンティア)」の著者最新作。
「成風堂書店」のシリーズから離れた、書き下ろし長編。
〝古くて大きなお屋敷の謎を前に、二人の少女が大奮闘!
 この家に、入れちゃいけない「うさぎ」は誰だ?〟
地方の旧家の古屋敷を舞台に、
ふたりの「少女」の不安と、旧家にまつわる秘密を優しく描くミステリだ。


父の経営していた会社が倒産し、都心のマンションから、
関東近県にある父の実家に引っ越してきた、小学六年生の蔵波奈都。
転校で友達と離れることも、不便な田舎に住むことも、別にいやではなかった。
とにかくいやだったのは、どこかおどろおどろしい、古くて大きなお屋敷。
そして、とにかく奈都に厳しく当たる、大叔母の雪子の存在。
ある日、そのお屋敷で留守番を言いつけられた奈都が、
級友の祐太に、その悩みを打ち明けると、
ねえちゃんのさゆりが一緒に泊まってくれるという願ってもない話に。
お屋敷に興味津々のさゆりと一夜を過ごした奈都は、奇妙な出来事に遭遇する。
やがて、屋敷には不吉な言い伝えがあることも判明し…


「成風堂」を離れた大崎梢の、注目の書き下ろしである。
長編ではシリーズ第2作の「晩夏に捧ぐ<成風堂書店事件メモ・出張編> (ミステリ・フロンティア)」が、
短編ほどの切れを欠いていたこともあって、
やや不安もあったのだが、何の何の。まさしく杞憂に過ぎなかった。
「成風堂」のシリーズの持ち味でもある、優しさあふれる視点が、
不安に悩む少女の描写にもうまく生かされ、新たな魅力にまで膨らまされている。
まだ幼さを残す奈都が、時代を越えた「同じ悩み」を知ることで、
苦手な人とのこころの交流を体験し、次第に成長していく姿。
何だか、読んでいるだけでこころが温まっていくような感じである。


不吉な言い伝えのある古屋敷の、お化け屋敷チックな描写もいい。
「お化け屋敷大好き」を公言するさゆりに導かれ、
大の苦手の古屋敷を探索させられる奈都の戸惑いも、また一興だ。
旧家独特の、またひと味違う「怖さ」なんかも加わると、
物語にちょっとした深みなんかも出てくるわけで、
単純な謎解きパズルに終わらない、多彩な魅力につながっている。


「晩夏に捧ぐ」で感じた、短編を長編に膨らませたような、
水増し感(寄せ上げ感?)は、まったくないと断言できる。
まあ、全体的なまとまりのよさは否定できないが、
少女・奈都をめぐる物語の独特の味わいを考えれば、それも正解。
大崎梢、新たな代表作の誕生といってもいいだろう。


Amazon.co.jp片耳うさぎ