デイヴィッド・ブリン「キルン・ピープル」

mike-cat2007-09-12

(「キルン・ピープル 上 (ハヤカワ文庫 SF フ 4-19)」「キルン・ピープル 下 (ハヤカワ文庫 SF フ 4-20)」)


〝ゴーレム探偵登場〟
「スタータイド・ライジング」の人気作家による最新作。
ユダヤ教の伝承にある動く泥人形、ゴーレムを、
近未来のテクノロジーに移し替えたSF大作。
〝近未来のアメリカ。
 ゴーレムと呼ばれるクローンを何体も使って調査する
 私立探偵モリスの活躍を描く、傑作SFミステリ〟
何人もの〝おれ〟が次々と入れ替わる、衝撃の探偵物語だ。


時は近未来。
人類の生活は、革新的な技術の登場で大きく様変わりした。
陶土でできた人形に、個人特有の「定常波」をコピーするクローン技術。
専用の陶窯<キルン>で焼かれた「ゴーレム」は、
本人の代わりに、労働やさまざまな体験など多種多様な用途をこなす。
たった一日の寿命の終わりには、本人との記憶の併合も行われ、
人間はより多くの「人生」を謳歌するようになっていた。
より精密なゴーレム精製を誇る私立探偵のモリスは、
そんなゴーレムたちを巧みに操り、違法な複製業者を調査していた。
だがある日、そのモリスに奇妙な誘拐事件捜査の依頼が舞い込んだ―


とてつもない作品、といったらいいのだろうか。
初めて読むブリンの作品だったのだが、とにかく圧倒された。
何しろ、同じ主人公が、同時にさまざまな場面で活躍するのである。
何人もの〝おれ〟のエピソードが同時進行しつつも、
ひとつの大きなストーリーを構成している、という壮大な構成。
その一つ一つのエピソードも、
一人一人の〝おれ〟のキャラクターもそれぞれが際立っている。
なるほど、ブリンが人気作家である理由がよくわかる。


このゴーレム、というのも面白い。
単純なクローンはクローンで、想像が膨らむ設定だが、
このゴーレムにまつわるさまざまな制約は、
さらなるストーリーの可能性につながる。
たった一日しかゴーレムの寿命が保たなかったり、
その陶土の?人形?は、用途によって色分けされていたり…


中でも、この用途別の色分けが面白い。
単純労働用の安物のグリーンや、オフィスワーク用のグレイ、
使い捨てのキャンディーストライプに、いわゆる風俗産業用のホワイト、
学究用のエボニー(漆黒)に、金持ちが示威的に使うプラチナ…
それぞれにちょっとした性格の違いなんかも現れて、
ストーリーに変化をもたらしてくれるのが、また憎い。
ほかにも、ゴーレムの設定をうまく遊び心につなげたエピソードは、
ストーリーの随所に詰まっていて、退屈する間は一切ない。


肝腎のストーリーも、
SFとしてのハードな哲学的・理論的な追求はもちろんのこと、
探偵ものとして王道の面白さを兼ね備えている、という絶妙な作り。
ゴーレムとは何か、魂とは何か、みたいな感じで、
哲学的な要素が強くなる終盤は、ややきつくなるが、
それまでの勢いも手伝って、さほど苦しむことなく読み進められる。


そんなわけで、とにかくSFならではの衝撃と、
物語の面白さが詰まった、まさしくエンタテインメントな傑作。
なかなか魅力を伝えづらいのだが、
何はともあれ、読むしかない、と安心して薦められると思う。
上下巻で1000ページを越える大ボリュームも、
読み出したらそんなには気にならない、一気読み必至の作品だ。


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