トマス・H・クック「石のささやき (文春文庫)」

mike-cat2007-09-07



〝せつなく痛ましい悲劇と
 最後に明かされる真相の衝撃――〟
死の記憶 (文春文庫)」「緋色の迷宮 (文春文庫)
の名手、待望の最新作。
〝すべての小説好きを魅了する、 
 それがトマス・H・クックだ。〟
タペストリーのように織りこまれる、
いかにもクックらしい手法で語られる、数々の悲劇―


警察の取調室。〝おまえ〟はある事件を振り返る。
トルストイと重ね合わせ、ほのめかされる「四つの死」。
そして語り始められる、悲劇的な川の源。
ニューイングランドの田舎町を舞台に、起こった悲劇。
息子を失った〝わたし〟の姉は、その「事故」を信じなかった。
やがて姉の怒りは、夫に向けられ、小さな町を揺るがし始めた―


〝おまえ〟と呼び掛ける語り手が綴る現在と、
〝わたし〟の回想で語られる過去の事件。
事件の全容が見えないまま、進んでいく物語は、
2人の語り手が何ともいえないタイミングで入れ替わり、
おぼろげなイメージを保ったまま、終盤まで突入していく。
このじれったさが限界に達したところで、
事件の全貌は突然正体を現し、さらに衝撃の真相が追い討ちをかける。
これまでも何度となく酔わされた、クック一流の手法が今回も用いられている。


だが、この作品に限っては、それも少々難解に過ぎた印象だ。
まだ、脳が読書する状態になっていないせいかもしれないが、
そのじらしのさじ加減が、どうにも今回は微妙な気がしてならない。
姉が息子を失った「事件」と、それにまつわる疑惑。
〝わたし〟の娘まで巻き込み、
古代の殺人と「石のささやく」声に耳を傾ける姉。
やや盛り込みすぎの内容にも思える途中までの展開と、
終盤一気に明らかになる事件の全貌とのバランスがどうもいまいち。


読み終えたとき「ああ、それなのか」と、
ちょっと肩透かしな部分を感じてしまった、というのも正直なところだ。
もちろん、その部分を置いても、十分に楽しめる作品で、
クックのクオリティにしては、どうなのかな、とうレベルでの話。
もしかしたら、「読める」人にはむしろ、その深さがグッと突き刺さるのかも。
でも、あくまで個人的な感想としては、
過去の傑作群と比べると、やや落ちる、という評価にせざるを得ない。


Amazon.co.jp石のささやき (文春文庫 ク 6-16)