マイケル・クライトン「恐怖の存在 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV ク 10-25)」「恐怖の存在 下 (3) (ハヤカワ文庫 NV ク 10-26)」

mike-cat2007-08-20



〝気象災害を引き起こす環境テロリストの陰謀
 科学を悪用した危険な策謀を企てる目的は何か?〟
ジュラシック・パーク」のマイケル・クライトンによる、
環境問題をテーマにしたサイエンス・アクション・サスペンス。
〝われわれは地球温暖化についてどれだけ知っているのか?
 世の「常識」を根底からくつがえす問題作!〟
メディアが喧伝する「地球温暖化」にまつわる、
さまざまな嘘や語られない事実をふんだんに織りこみ、
環境問題への盲信&妄信に鋭くメスを入れる。


地球温暖化の影響による水位の上昇で、水没の可能性が指摘される、
平均海抜1メートルの島嶼国家ヴァヌーツ(バヌアツ)が、
地球温暖化の元凶でもあるアメリカを相手どり、訴訟を起こすことになった。
この訴訟を支援すると発表したNERF(アメリカ環境資源基金)に対し、
その費用負担に手を挙げた富豪ジョージ・モートンだが、
NERFの活動やその経理をめぐって、奇妙な点に着目する。
環境問題会議を目前に、各地で環境テロリストが暗躍、
情勢が緊迫の一途となったその矢先、モートンが突如姿を消した―。


かつてのアメリカ副大統領アル・ゴアがそのライフワークの一環として、
地球温暖化の危機を訴えた「不都合な真実」が、世界で大きな反響を呼ぶ一方で、
環境問題はなぜウソがまかり通るのか (Yosensha Paperbacks)」など、
メディアが喧伝する「地球温暖化問題」の?問題点?を指摘する本も世間をにぎわせている。
この本も、その豊富な資料と、ショッキングなストーリーで、
その「地球温暖化」にまつわる諸々の「常識」に疑問符を投げかけ、
地球温暖化を隠れ蓑にした様々な金儲けや欺瞞を暴き出す1冊だ。


序盤から、「常識」は揺らぎっぱなしだ。
地球温暖化なんてものはね――存在しないのよ。
 たとえあるにしても、むしろ世界の大半に益をもたらすものだわ」
「われわれは戦争の真っ最中なんだぞ。
 〝情報〟対〝偽情報〟の、地球規模の戦争
 ――それはいくつもの船上でくりひろげられてる。
 新聞の論説。テレビのレポート。科学雑誌
 ウェブサイトでも会議でも教室でも――それをいうなら、法廷でもだ」


産業サイドによる情報操作が、地球温暖化の危険性を隠蔽している―
この指摘は、環境運動家のサイドではまあ、「常識」ともいえる。
だが、そんな環境保護主義者の偽善、意図的な情報の抜粋といった、
策略、戦略の数々は、環境保護の錦の御旗の下、糾弾されることは少ない。
そして、資金調達のために、資金のほとんどを使うという環境団体。
さらにまさしく環境保護運動を食い物にする法曹関係者たち。
かつて共産主義や核戦争の恐怖を煽ってきた連中は、
こんどは気候変動を恐怖の極相<ステイト・オブ・フィアー>に位置付け、
<政治・法曹・メディア>複合体となって、巨額のカネを生み出す。
このカラクリ… 美しい言葉「環境保護」を、決して鵜呑みにしてはならないのだ。


むろん、環境保護の必要性を否定するものではない。
あくまで、美辞麗句に踊らされるのではなく、可能な限り見極めろ、
というのがこの本の最大のメッセージである。
手垢とカネにまみれた、エセ環境保護ではない、
本当の意味で将来を見すえた、新しい形を模索するべきだ、ということだ。



そうしたメッセージ性の強烈さの一方で、
落雷に洪水、鉄砲水、津波といった、環境テロの手口もなかなか刺激的。
何だか優柔不断な顧問弁護士ピーター・エヴァンズや、
そのピーターに次第に好意を感じていくモートンの秘書サラ・ジョーンズ、
死にかけの人間にも講釈を忘れないMITの危機分析センターのジョン・ケナー…
魅力的な人材を取りそろえたドラマの方も、読み応えは十分だ。


エアフレーム―機体〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)」「エアフレーム―機体〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)」や「タイムライン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)」「タイムライン〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)」など、
ちょっと個人的にはイマイチな作品が続き、
プレイ―獲物〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)」「プレイ―獲物〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)」はパスしてしまったクライトンだが、
この作品は、悪くない、というか、久しぶりにピンとくる作品。
当然、この本に取り上げられた「事実」も鵜呑みにするのは危険だが、
世の「常識」をもう一度問い直す意味でも、興味深いのじゃないだろうか。


Amazon.co.jp恐怖の存在 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV ク 10-25)恐怖の存在 下 (3) (ハヤカワ文庫 NV ク 10-26)