横山秀夫「真相 (双葉文庫)」

mike-cat2007-08-19



〝隠蔽、誤算、保身、疑心暗鬼―
 事件の真相は奥の奥の奥にひそんでいる。〟
半落ち (講談社文庫)」「クライマーズ・ハイ (文春文庫)」の横山秀夫による、
複雑な苦味をたたえた犯罪短編集。
〝単純な正義感だけでは生きていけないこの社会。
 そこに住まう私たちが「真相」の主人公です。〟
皮肉な運命、そして不意の衝動に揺れ動く人間の悲哀―


表題作「真相」は、
10年前に息子を殺した犯人が自供した、哀しき真相の物語。
知ることのなかった、息子の別の顔、
そして現在を形づくる忌まわしき「真相」が、ひたすら痛い一編だ。


「18番ホール」は、
かつて捨てた故郷に村長候補として戻ってきた男の物語。
熾烈を極める選挙戦の中、18番ホールに埋められた秘密が浮上する。
主人公にまったく共感できないのが残念だが、
ストーリーの仕立て具合はさすが横山秀夫な一編。


「不眠」は、
永年勤めた会社をリストラされ、睡眠薬の人体実験で糊口をしのぐ男の物語。
リストラという処分の、非人間的な側面を濃厚に描写する。
「必要な人間」をめぐる物語の展開が、ひたすらもの悲しい。


「花輪の海」は、
大学空手部の夏合宿にまつわる、これまた忌まわしき「真相」の物語。
長い空白を経て、疚しい記憶と向き合う男たちの、熾烈なさぐり合い。
最後に示されるかすかな救いが、なかなかの後味を残す。


「他人の家」は、
社会との隔絶に苦しむ、前科者の夫婦がつかんだほんの幸福。
そのはかない幸福がよって立つ基盤に隠された、恐ろしい「真相」。
曖昧なままに終わるラストの余韻が、たまらない一編だ。



以上5編。
オビにある通り、ラスト1行を読み終えたときの、独特の余韻が楽しめる1冊。
やはりベストは表題作の「真相」だろうか。
長男の死によって、二度、三度と傷つけられる主人公の悲しみが、味わい深い。
横山秀夫の数々の傑作と比べてしまうと、
平均的な作品群に過ぎないが、それはそれで十分に楽しめる。


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