樋口有介「新装版 ぼくと、ぼくらの夏 (文春文庫)」

mike-cat2007-08-10



〝こんな暑い日に死ぬことはなかった〟
1988年のサントリーミステリー大賞読者賞受賞作。
〝夏休みなんて、泳いだり恋したりするものだと思っていたのに……。
 青春ミステリーの歴史的名作、あの“ぼくらの夏”が帰ってくる!〟
樋口有介お得意の、甘さと切なさが漂う夏休みがいま、始まる。


高校2年の夏休みl、
戸川春一のもとに届いたのは、同級生の岩沢訓子の自殺の報せ。
なぜ、彼女は死ななければならなかったのか…
中学校時代まで訓子と親友だったという、酒井麻子とともに、
訓子の死の謎を追い始めた春一だったが、そこには暗い秘密が隠されていた―


減らず口で繊細なこころを隠す主人公がなかなかいい。
ストリート・キッズ (創元推理文庫)」のニール・ケアリーとまではいかないが、
彼女はたぶん魔法を使う (創元推理文庫)」など柚木草平シリーズの柚木の図々しさとは、
ちょっと違い、どこかに傷つきやすさと、若さゆえの傲慢が漂う。
青春ならではの痛さなんかも、ちょっと匂ってきて、これまた一興だ。


死んでしまった同級生、訓子に対する気持ちがリアルである。
同級生にもかかわらず、たいした印象はなかった。
〝顔立ちはよかったがとにかく目立たない子で、
 勉強でも運動でも、クラスではすべてが「その他」だった。〟
確かにそういう子、いたよな…、と思わず頷いてしまう。


だが、そんな訓子の場違いな〝死〟が、春一を突き刺す。
〝こういうことがなければ、あとになって思い出すこともなかったかも知れない。
 だけど二日間君と一緒に彼女の跡を追ってるうち、
 岩沢には岩沢の人生があったことに気がついた。
 当たり前のことだけど、その当たり前のことを、つい忘れていた。〟
傲慢さを脱ぎ捨て、すこしずつ、大人になっていく主人公の姿がそこにある。


一方で、次々と登場するきれいな女の子たちに、ちょっと色っぽい場面は、
まさに柚木草平シリーズのそれに近いものはある。
殺人事件云々の要素を抜きにすれば、
自分の高校時代がこうであったら…、という妄想まじりのノスタルジーかもしれない。
リアルタイムで同じ世代を生きる人間には、バカバカしくも感じられるだろうが、
過ぎ去った〝あの頃〟を、もう一度、それも都合よく味わいたい年代にはぴったりだ。


20年という歳月を経ても、いまなお古びないその感覚に驚きつつ、
ひたすら読みふけってしまうのがまた楽しい1冊。
ある意味、樋口有介の原点ともいえる作品に、感激もまた新たなのだった。


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