古川日出男「ハル、ハル、ハル」

mike-cat2007-08-09



〝3人のハルよ、世界を乗っ取れ〟
LOVE」の三島由紀夫賞作家最新作。
〝衝撃!戦慄!驚愕!震撼!圧倒!怒濤!脅威!
 暴走する世界。失踪する少年と少女。
 この物語は全ての物語の続編だ。〟
13歳の少年、16歳の少女、41歳の男、
3人のハルが織りなす〝すべての物語の続編〟である表題作ほか2編。


あとがきにはこうある。
〝二〇〇五年十一月から僕は完全に新しい階梯に入った。
 最初にこれを断言しておこう。
 そして、その階梯での第一作として書き綴り、
 発表したのが中編の「ハル、ハル、ハル」だとも言い切っておこう。
 意図したのは“生きている文章”であり、
はっきりとした“世間との対決姿勢”だ〟


だから、「ハル、ハル、ハル」はどこまでも挑戦的だ。
〝この物語はきみが読んできた全部の物語の続編だ。
 ノワールでもいい。家族小説でもいい。
 ただただ疾走しているロードノベルでも。
 いいか。もしも物語がこの現実ってやつを映し出すとしたら。
 かりにそうだとしたら。そこには種別(ジャンル)なんてないんだよ。
 暴力はそこにある。家族はそこにいる。きみは永遠にそこには停まれない。〟
良識を一蹴する物語の冒頭は、小説の常識をも一蹴する。


母親に捨てられた13歳、藤村晴臣。
日常的に家出を繰り返す16歳、大坪三葉留。
望まぬ移動を繰り返し、気づけばタクシー運転手の41歳、原田悟。
3人のハルは、一線を越え、つながり合い、そして疾走する。
ノワールで、家族小説で、ロードノベル。
つかみどころがないのに、こころをつかまれる。


終点を求め、突き進む3人のハルの物語は、
すべての続編の続きを予感させたまま、ある時点で突然打ち切られる。
その独特の余韻は、一種の陶酔感と達成感、
そして不思議な一体感をたずさえながら、こころに澱を残す。
解った、というつもりもないし、文学的な読み解きも特にする気はない。
何となく感じた、ということでいいのだろうと思う。


残り2編の「スローモーション」「8ドッグズ」については、
あまり引き込まれることもなければ、特に感想もない。
どちらも〝新しい階梯〟を強く感じさせる一方で、
読む側にすれば置いていかれたような印象も強い。
率直にいうと、ようわからん、というところだ。


しかし、古川日出男はどこを目指しているのだろうか。
たとえば、ジェイムズ・エルロイが「ホワイト・ジャズ (文春文庫)」が達した領域なのか。
ついていけるものだけがついていけばいい、それも一つの考え方だ。
ただ、個人的についていけるのは「ハル、ハル、ハル」までだろうか。
これまでも独創的で、挑戦的な文体をつづってきた作者だが、
この〝新しい階梯〟での文体は、
さらにそのエッジがギザギザにとがってきたような気がする。
今後、新しい古川作品に手を出すべきかどうか、ちょっと迷っているところだ。


Amazon.co.jpハル、ハル、ハル