ドナ・ハート、ロバート・W・サスマン「ヒトは食べられて進化した」

mike-cat2007-08-08



〝人類史の常識をくつがえす衝撃の進化論〟
日経、産経の書評などで話題のノンフィクション。
〝「狩るヒト」から「狩られるヒト」へ
 人類の祖先は勇敢な狩猟者ではなく
 肉食動物の餌食だった!〟
 自然人類学の専門家による、
 まったく新しい人類進化論の仮説。


人類の祖先のイメージといえば、
パッと思いつくのは、狩猟者としてマンモスらを狩る姿だろうか。
森から草原に生活の場を移したヒトは、道具を用いて狩りを始めた―
その狩猟者としての人類は道具を発展させ、社会を構築した。
むかし習った人類史は、そんな感じだったような気がする。


だが、この本が唱えるヒトの祖先像は、それとはまったく違う。
ヒトの祖先は、狩る側ではなく、狩られる側の獲物だった、という大胆な仮説。
ヒトは捕食者からの襲撃を逃れるべく、
さまざまな道具を用い、社会を構築した被食者だった、というのだ。


そして、その検証の中で、過去と現在にわたって、
狩られる側、喰われる側としての人間と、その捕食者の姿を追う。


〝古い記録にはスティーヴン・キングの小説など
 比ではないくらいぞっとする話が残されている〟とある通り、
最大の見どころは(悪趣味極まりないが…)、やはり喰われる場面。
ライオンにトラ、ヒョウ、クマ、そしてオオカミにハイエナ
さらにヘビやワニ、サメ、ついでにワシやタカに至るまで、
ありとあらゆる肉食動物に喰われる人間の姿を描き出すのだ。


各章のタイトルなんかも、やたらと刺激的だ。
「ありふれた献立の一つ」 に、
「誰が誰を食べているのか」 だの、
「ヘビにのみ込まれたときの心得」だの、
「私たちは食べられるのをぼうっと待っているだけではなかった」だの…
そのタイトルだけで、もうごはん一杯いけそうな濃ゆい味が沁み出す。


特に爬虫類による被食を取り上げた第6章は、
タイトルの通り、アフリカで宣教活動が始まった頃に伝えられた、
アフリカニシキヘビに出会ったときの、とんでもない心得が紹介されている。
本の中にもある通り、これを実践できる人、そうはいないはずである。
ほかにも、クマに喰われた人の体験談に、
太平洋戦争当時の日本軍がワニに襲われたエピソードなど、
まさしくスプラッタホラー顔負けのすさまじい描写にあふれている。


もちろん、そうした刺激には及ばないが、
そうした被食者としての性格が、人類の進化に必要不可欠だった、とする、
大胆不敵な仮説についての説明も、なかなかに読ませる。
いままで常識と思っていた〝事実〟が覆されるようで、
ちょっと不思議な気分も味わえる、悪くない1冊だと思う。
決して読みやすい本ではないが、一読の価値は、間違いなくありだ。


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