アン・クリーヴス「大鴉の啼く冬 (創元推理文庫)」

mike-cat2007-07-30



〝ペレス警部の緻密な捜査が暴く
 女子高生殺害をめぐる島の闇〟
2006年のCWA賞(英国推理作家協会賞)受賞作。
シェットランド・シープドッグの原産地としても知られる、
英国本土とノルウェーに挟まれたスコットランドの辺境、
シェトランド島を舞台にした、重厚なミステリだ。
イギリス本格派の新旗手として知られるアン・クリーヴスによる、
シェトランド四重奏=カルテット=>の第1作となる。


物語の舞台はヴァイキングの祭典「アップ・ヘリー・アー」を目前に控えた、
英国最北の地、シェトランド島の小さな町。
本土から越して1年になる黒髪の美少女キャサリンが、無惨な死体となって発見された。
容疑者は近くに住む孤独な老人マグナス。
障害を持つ彼は、未解決に終わった8年前の少女失踪でも疑惑がかけられていた。
捜査に乗り出したペレス警部の前に立ちはだかったのは、
複雑に絡まり合った地元の人間関係、そして深まるばかりの謎だった―


解説によると、アン・クリーヴスは、作中でペレス警部の出身地ともなっている、
シェトランド諸島フェア島に在住していた経験があるとか(それも野鳥観測所のコック)。
その経歴を生かし、描かれるシェトランド島は、
美しくも厳しい自然、そして島に生きる人々のリアルな姿が特徴的だ。
中でも、小さな町ならではの複雑に入りくんだ人間関係は秀逸。
物語で描かれる事件に直接の関係があるないに関わらず、
この小説の奥深いドラマを構成する、重要な要素のひとつとなっている。


登場する人々も、それぞれが非常に個性的だ。
スペイン無敵艦隊の船員にルーツを持ち、
地元出身でありながらアウトサイダーでもある、ペレス警部をはじめ、
人には言えない、ある秘密を抱えるマグナスや、
殺されたキャサリンの親友で、厳格な教師である母に悩まされるサリー、
運悪く死体発見者になってしまう幼い少女の母フラン、
娘の突然の死に際し、図らずも自分自身を見直すことになる父ユアン
地元の有力者を父に持つ、愚かなボンボンのロバート、
そして、都会っ子らしい辛辣さが、周囲から浮き上がっていた被害者…
濃ゆい面々が密接に結びつく一方、捜査は闇の中へ迷い込む。


ミステリとしての体裁も、なかなか巧みである。
視点が切り替わるトリッキーさこそあれど、基本は正統派。
「そうくるのか!」と思わせつつも、なるほど納得の真相にはうなること請け合いだ。
もちろん、ミステリ通は見破るレベルかもしれないが、
それはそれでドラマと込みで楽しめるんじゃないかと思う。
本邦初訳のアン・クリーヴスだが、その面白さは保証付き。
まだ脱稿されたばかりという第2弾〝White Nights〟も楽しみでならない。


Amazon.co.jp大鴉の啼く冬 (創元推理文庫 M ク 13-1)