伊坂幸太郎「チルドレン (講談社文庫)」
〝ばかばかしくも、恰好よい、
伊坂幸太郎が届ける「五つの奇跡」〟
講談社文庫で登場の、伊坂幸太郎の話題作。
〝活字離れのあなたに効く、小説の喜び〟
もちろん、活字中毒のあなたにはもっと効く、小説の喜びだ。
やたらとこだわる、理屈っぽい、風変わりなオトコ、陣内をめぐる連作集だ。
銀行強盗に巻き込まれた陣内が巻き起こす騒動を描く「バンク」
家庭裁判所の調査官となった陣内が問題解決に一役を買う「チルドレン」
陣内の失恋が原因で〝時間が止まった〟世界を描く「レトリーバー」
混乱模様の離婚調停に陣内が思わぬ助け舟を出す「チルドレン?」
陣内や永瀬、優子がともにした?特別な時?を描く「イン」の5編。
それぞれが、1人称の視点で描かれ、
銀行強盗にともに巻き込まれた鴨居や、
家裁の調査官の後輩である武藤、
「バンク」で知り合った盲目の青年永瀬と盲導犬ベス(ベスは語らないが)、
その永瀬の恋人である優子が、その人、陣内と、事件を語る。
最大に魅力は、言うまでもなく、陣内の人柄だろう。
それぞれの視点で語られる、何だか困った陣内君の姿がやたらとおかしい。
〝理屈にならない理屈で人を困らせる〟
〝何でもかんでも決めてかかる性質がある。
いつだって、物事を断定し、「絶対そうだ」と決めつけるのだ。〟
どんな時もブレない、信念のオトコ、といえばそうなのだが、
かといって、何だかどっしりとした、立派なオトコかと言えばちょっと違う。
〝陣内さんが自分の発言に責任を持たないのは、日常茶飯事だった〟
どこかつかみどころのない、愉快なんだが不愉快なんだかわからないオトコ。
誰もが、陣内の?奇妙な話に半ば呆れ、半ば愉快さを感じ?るのである。
ひとつひとつの発言が、いちいち面白いのだ。
誘拐事件の報道協定で「無事に保護」された少年の話に、やたら反応する。
〝「報道規制かなんか知らねえけどさ、
『実は誘拐事件がありました』なんて、後になって言われても困るよな」
陣内さんは針金で耳をほじくりながら、文句を言った。
「同窓会で会った女の子に『昔、憧れてたんです』と言われるのと同じだな。
その時に言ってくれないと意味がないんだよ」〟
力ずくで納得させられてしまいそうだが、何だかズレている。
そんな細かいこだわりを見せる一方で、
どこか世間のしがらみや、既成の価値観を超越した部分もある。
永瀬たちが、陣内について語る場面だ。
「うまく言えないけどさ、陣内君って凄いよね」
「陣内は世の中の面倒なことを飛び越しちゃっているのかもしれない」
「誰も許可していないのに、勝手に、飛び越しちゃったって感じだよね」
そう、誰も許可してないところが、ミソなのである。
時間軸を前後させながらリンクする連作は、とても味わい深い。
「関東で起きている四人組の強盗」なんて感じで、
あの作品やこの作品が微妙にリンクし、伊坂作品のお楽しみはきっちり抑えてある。
個人的な好みで言うと、伊坂作品の中では
「死神の精度」や「終末のフール」、「フィッシュストーリー」がベストなのだが、
それらの作品とも並ぶような、かなり好みの作品だと思う。
単行本では読み逃してしまったが、あらためて満足の1冊だった。