樋口有介「夢の終わりとそのつづき (創元推理文庫)」

mike-cat2007-07-17



依頼人も相棒も美女。
 尾行だけの簡単な仕事が一転……?!
 柚木草平“35歳”最初の事件〟
創元推理文庫で刊行が続く、柚木草平シリーズ最新作。
デビュー前の習作だった「ろくでなし」を、
シリーズとして全面改稿した、文庫オリジナル版。
〝若き日の柚木を憂鬱にさせる、
 美女と不可思議な陰謀。青春私立探偵シリーズ第五弾!〟


〝俺〟柚木草平は、刑事を辞めて8カ月の「刑事事件専門のフリーライター」。
そんな〝俺〟のもとに、目が覚めるような、いい女が訪れた。
彼女の依頼は、ある男を1週間尾行するだけ、という簡単な仕事。
それでいて、報酬は破格の200万円。
だが、一風変わった行動を取る男を尾けていた?俺?は、
突如、とんでもない事件に巻き込まれていくことになる―


巻末のあとがき&解説に詳しいが、
もともとは、作者がデビュー前に書いた習作を97年に出版、
作者自身が振り返る通り、あまり評判は高くなかった作品だが、
主人公のイメージが柚木草平とダブるとあって、今回全面改稿。
永遠の38歳、柚木草平も、この作品では35歳、
探偵稼業に足を踏み入れて間もない頃の、最初の事件が描かれる。


シリーズの最大(?)の特長でもある、
女たらしの柚木と、美女との出会いは、もちろんきっちり抑えてある。
その後のシリーズと比べても、やや現実感のない美女という感じはするが、
この作品そのものが、かつての習作の勢いそのままに、
だいぶかっ飛んだ内容になっているため、そこまで違和感はない。
これまでのシリーズで読んだ記憶がない、濡れ場そのものも登場するなど、
いろいろな面で粗削りな部分を、残しつつ、全面改稿というイメージだ。


軽妙というか、軽薄というか、語り口はそのまんま柚木草平だ。
〝「わたくしも質問していいかしら」
 「美人は生まれたときから、男に質問する権利を持っている」
 「あなた、なぜ、こんなお仕事を?」
 「世間の役に立つ生き方は、疲れる」
 「それだけの理由で?」
 「自分が善人でないことも知りすぎた」
 「奥さんとはなぜ別居を?」
 「質問の内容が哲学的すぎるな」
 「ただの世間話よ」
 「君のような美人に、ただの世間話は似合わない」〟
かと思えば、わずか13歳の実の娘に、
女たらしとしての本質を、ズバリと見抜かれていたりもする。
相変わらず、読んでいるだけでにやりとしてしまう作品の雰囲気だ。


事件そのものは、先にも書いた通り、ややトンデモな設定。
それでも、謎めいた事件の核心部分に、
〝近づけば近づくほど、答えのほうが逃げていく〟展開はなかなか。
シリーズ独特の切なさと甘さが入り交じる、柚木の恋の行方も悪くない。
ファンとしては、やっぱり読み逃すことのできない1冊。
東京創元社の「ミステリーズ!」では、
シリーズ最新長編の「捨て猫という名前の猫」も連載中とか。
そして次の刊行は9月の「誰もわたしを愛さない」。
こちらも、ますます楽しみな柚木草平シリーズなのだった。


Amazon.co.jp夢の終わりとそのつづき (創元推理文庫 M ひ 3-7)