桜庭一樹「青年のための読書クラブ」

mike-cat2007-07-05



〝名門お嬢さま学校の、禁断の部屋へようこそ。〟
赤朽葉家の伝説」の桜庭一樹最新作。
〝恋と哲学が交錯する、注目の奇才、ド迫力の新境地。〟
東京・山の手のお嬢さま学校「聖マリアナ学園」を舞台に、
異形の集団「読書クラブ」が綴った、学園の闇の歴史―
〝しかし、諸君、世界は本当に空っぽか?〟
少女たちのたどってきた100年を描く、連作集。


マリアナ学園は、東京の山の手に、広々とした敷地を誇るお嬢さま学校。
その伝統ある学園の誇る、花形のクラブ活動、それは生徒会と演劇部。
両クラブは、投票によって決められる、少女たちの女王蟻〝王子〟を輩出してきた。
だが、そんな学園にも、正史では決して語られない、闇の歴史があった。
その抹殺された歴史を綴る者。それが、異形の読書クラブだった―


名もなき少女たちによって記された、5つの闇の事件簿。
「烏丸紅子恋愛事件」の舞台は、1970年前後。
かの「シラノ・ド・ベルジュラック」をモチーフに、〝偽王子〟の事件を描く。
「聖女マリアナ消失事件」で描かれるのは、
20世紀初頭に学園を創設したフランス出身の修道女、聖マリアナの数奇な人生。
「奇妙な旅人」の舞台は、バブルに踊る80年代。
シェイクスピアの「マクベス」をモチーフに、
にわかに六本木化した学園で起こった、とんだ亡命騒ぎが描かれる。


2009年に舞台を移した「一番星」は、
学園を熱狂の嵐に巻き込んだ、あるロック・スターの物語。
モチーフは、ナサニル・ホーソーンの「緋文字」である。
そして、2019年。
共学化を目前にした学園を舞台に語られる最終章「ハビトゥス&プラティーク」。
バロネス・オルツィ「紅はこべ」をモチーフに、
学園に突如出現した、義賊「ブーゲンビリアの君」事件が描かれる。
そして、愛すべき少女たちの裏庭「読書クラブ」の、その後―


なかなか、評価の難しい作品かもしれない。
あくまで、クラブ誌に記された歴史、という体裁を取っているため、
事件そのものは濃厚な本質を擁していても、描写は淡々となってしまう。
物語はあれど、ドラマは薄弱、といった感じで、
途中までは、貪るように読んでしまうようなパワーは、正直あまり感じない。


ただ、やはり連作集のよさで、読み進むにつれ、
この異形の少女たちへの愛着というか、愛情が湧いてくると話は違ってくる。
マリアナの生涯を知り、学園の正史、
そして闇の歴史を知った上で読む後半2章は、かなり愛おしく感じられる。
最終章で登場する、前章の登場人物たちには、思わずグッとくる。
かつての少女たちと、かつての学園へのノスタルジーを胸に、物語は幕を閉じるのだ。


かつて乙女だった<ブリキの涙>の言葉が、物語の最後を飾る。
〝乙女よ(そして青年よ!)、永遠であれ。
 世がどれだけ変わろうと、どぶ鼠の如く、走り続けよ。
 砂塵となって消えるその日まで。雄々しく、悲しく、助け合って生きなさい。〟
少女じゃなかった僕にも、何だか胸に沁みる、そんな言葉なのである。


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青年のための読書クラブ
桜庭 一樹著
新潮社 (2007.6)
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