星新一「ボッコちゃん (新潮文庫)」

mike-cat2007-07-02



〝この1冊は、私、星新一というあやしげな作家そのものを、
 ショートショートに仕上げた形だといえるかもしれない。〟
星新一 一〇〇一話をつくった人」で、
ミニ・マイブームの星新一の代表作。
ミステリーあり、SFあり、ファンタジーあり、寓話に童話…
切れ味鋭い痛快なオチに、ブラックな味わい、複雑な余韻。
バラエティあふれる、豪華な50編のショートショート


1971年の初版で、現在は88刷を数えている、ロングセラーだ。
ずっと以前読んだときも、強烈な印象を覚えた、選りすぐりの作品ばかり。
「一〇〇一話をつくった人」にも登場した表題作「ボッコちゃん」や、
「おーい でてこーい」など、「一〇〇一話〜」と合わせて読みたい1冊でもある。


あとがきで星新一自身が述べているように、
初期の作品を中心に、さまざまな作品を取りそろえている。
発明ものや金庫ものなど、思わずクスリとするような、
軽妙でどこかブラック、そして風刺の効いたオチが光るお得意の作品群に加え、
混血児(いまは政治的に正しくない表現?)のペットを描いた「月の光」、
拝金主義を徹底的に突き詰めた「マネー・エイジ」などなど、
こういう作品もあったのだな…、といろいろと発見もある。
(以前読んでいるはずなのに、全然覚えていないのは恥ずかしい限りだが…)


このネタ1つで、映画の1本も取れそうな作品も少なくない。
慎重すぎるスパイを描いた「程度の問題」なんか、
そのまんまスティーヴ・マーチン主演のコメディ映画にできそうな感じだ。
ウディ・アレン監督でお上品に撮るもよし、
デービッド・ザッカーあたりに、ベタに撮らせるもよし。
しかし、それをあえてショートショートでまとめる、この粋な贅沢。
ついつい読み流してしまいそうなショートショートに、
星新一が生涯をかけた情熱と、強いこだわりが、ひしひしと伝わってくる。


マイベストは、願いを叶えてくれる妖精と、少女を描いた「妖精」だろうか。
自分の願いを叶えてくれる分、ライバルにはその願いの2倍がもたらされる。
このシニカルな設定、そしてその挙げ句の残酷な結末…
星新一の人の悪さ、というか、人を喰った感性が何とも味わい深い。


初期の作品群でも、もちろん色褪せた印象はほとんどない。
(もちろん、携帯やネットの発達など、いかんともし難い点はあるが…)
すでに自分が読んだ時点でも世代を越えた魅力を振りまく作品なのだが、
さらに世代を越え、平成生まれや2000年代生まれ、
さらにその後、星新一の思い描いた未来すら越えても、
ずっとずっと読み継がれて欲しい、勝手ながらそう思わせる傑作なのである。


Amazon.co.jpボッコちゃん

bk1オンライン書店ビーケーワン)→ボッコちゃん