マーカス・セイキー「錆びた刃 (ハヤカワ・ノヴェルズ)」

mike-cat2007-06-29



エルモア・レナードデニス・ルヘイン
    ――リー・チャイルド「キリング・フロアー」〟
ニューヨーク・タイムズなど各紙誌、
そして、T・ジェファーソン・パーカー、
ジョージ・P・ペレノーケスといった作家も絶賛の、話題の作品。
〝完全に縁を切ったはずの犯罪社会が男を追い詰める。
 人生を賭けた、自らの過去との戦いを描く注目のデビュー作。〟


シカゴのアイルランド人街に生まれ、犯罪社会に足を踏み入れたダニー。
しかし、相棒のエヴァンが店主を殺害し、逮捕された強盗事件を境に、
犯罪から足を洗い、建設業界で新たなキャリアを築き上げてきた。
恋人カレンとの安定した生活にある日、割り込んできたのは、
刑務所を7年ぶりに出所した、かつての相棒エヴァンだった。
強盗事件では共犯のダニーの名前を出さなかったエヴァンは、
その見返りとして、新たな犯罪に手を貸すよう強要してきた。
一度は協力を拒んだダニーだったが、エヴァンはカレンをたてに脅迫を続ける―


シカゴを舞台にしたハードボイルド・タッチの物語は、
ある種の息苦しい雰囲気に包まれながら、幕を開ける。
すべての発端となった、強盗事件の場面だ。
同じ犯罪者でありながら、必要以上の暴力に踏み出すエヴァン。
そのエヴァンに憤りすら覚えつつ、困惑を隠せないダニー。
そして、エヴァンの暴走が招いた事態の悪化は、ふたりを泥沼へ…


〝ふたりは同じ街の出身だった。
 が、エヴァンが質屋で引き金を引いた瞬間、
 その進路は決定的に分かれてしまった。〟
重罪刑務所で想像を絶する過酷な毎日を送ったエヴァンと、
罪を逃れ、過去を隠しながら、新たなスタートを切ったダニー。
だが、それもエヴァンが出所してくるまで、の話である。


ふたたびダニーの前に姿を現したエヴァンは、もっともタチの悪い犯罪者になっていた。
キャリア、そしてカレンという、ダニーにとっての守るべきものは、
そのままエヴァンに対しての、致命的な弱点となり、つけ込まれる。
またも息苦しいような、苦い選択を次々に強いられていくダニー。
この、自業自得とはいいつつも、何とも皮肉な展開がまた憎い。


そんな息苦しさを抱えつつも、物語は中盤から一気に疾走する。
四面楚歌の状況に追い込まれ、ついに過去と向き合う覚悟を決めるダニー。
偽りの上に築かれた生活に見切りをつけ、
苦い現実と本当に大事な何かをつかむため、ダニーは立ち上がるのだ。


ダニーがかつて犯した罪を考えると、
それはそのまま小説の味わいでもあるが、感情移入しづらい部分でもある。
うやむやなまま置き去りにしてきた過去の清算が、
こういう形で決着した、というのも、本人にとってはよくっても、
それに巻き込まれた周囲のことを考えれば、爽快感もだいぶ薄まる。
それだけ複雑な余韻を残すともいえるし、すっきりしないともいえるだろう。


それでも、一気に読ませるだけのパワーは感じられる作品。
各紙誌&有名作家絶賛、というのも、まあ納得といったところか。
ただ、最初に挙げておいてなんだが、
「レナード+ルヘイン」はだいぶ誇張が過ぎる感じだろうか。
÷3ぐらいをつけておくのが妥当、とつけ加えておきたい。
もっとも、それだって2人の魅力を知るファンには、十分なはずだが。


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