クリストファー・プリースト「〈プラチナファンタジイ〉 奇術師 (ハヤカワ文庫 FT)」

mike-cat2007-06-26



世界幻想文学大賞受賞作〟
言わずと知れた、ヒュー・ジャックマン×クリスチャン・ベイル主演の、
映画「プレステージ」原作である。
2人のイリュージョニストによる確執と、
その驚異の仕掛けを描く、一大エンタテインメントだ。


物語の始まりは、イングランドを北に向かう列車の車内。
ジャーナリストのアンドルーは、なぞの人物から届けられた、
ルフレッド・ボーデン「奇術の秘法」を手に、不思議な運命の存在に気づく。
迎え入れたケイト・エンジャは、祖先同士が因縁の間柄。
19世紀末から20世紀初頭に活躍した、「偉大なダントン」と、
「ル・プロフェッスール・ド・ラ・マジ(奇術大先生)」が繰り広げた死闘、
「瞬間移動」をめぐる、ぬぐい去ることの決してできない確執…
2人の手記を通じて明かされる、偽りと虚飾に満ちた歴史。
アンドルー自身の一卵性双生児の片割れとしての、
?架空?の記憶と絡み、真相はますます深い霧に包まれていく―


映画との最大の違いは、アンドルー・ウェストリーとケイト・エンジャ、
2人の奇術師の末裔が織りなす現代のエピソードの部分である。
時間的制約もあったのだろうが、映画では省略されることになってしまった、
ダントンとエンジャ(映画ではアンジャ)の確執のその後、が描かれている。


5章による章立ては、次々と語り手を変え、
より多層の騙し絵で、読者へ語り(騙り)かけていく。
「アンドルー・ウェストリー」の語りに、「アルフレッド・ボーデン」の手記、
「ケイト・エンジャ」の語りから、「ルパート・エンジャ」の手記に至り、
最終章の「プレスティージたち」では、再びアンドルーが語り手となる。
4人の〝信用できない語り手〟が織りなす、
幻想的で緻密な騙りは、「双生児 (プラチナ・ファンタジイ)」などと比べれば、比較的わかりやすい。


語り手が?信用できない語り手?であることを明かすのはかなり早め。
序盤でボーデンの手記に散りばめられた、
いくつかの記述に加え、こんな一節が読者に注意喚起を呼び掛ける。
〝すでに、偽りを書くことなく、わたしは惑わしを開始している。
 嘘はまさに最初の言葉のなかにさえ、含まれている。
 このあとにつづくすべてに織りこまれ、明白なところは一切ない〟
しかし、これだけ書かれても、やはりいいように騙されてしまうのである。
その心地よさたるや、もう素晴らしい、としかいいようがない。


さらに、今回は映画をすでに観ているため、
大きなネタそのものがわかっているのだが、それでもなお楽しくて仕方ない。
いかに作品のクオリティが高いか、という部分なんだと思う。
かつて角川文庫は「読んでから観るか、観てから読むか」なんて、
キャンペーンをしていた記憶があるのだが、そんな悩みにも応えてくれそうな1冊だ。


ちなみに、自分がそうだったから、というわけではないが、
「映画が先」をお勧めしたい。
どちらも優れた作品ではあるが、
映画の方がネタ明かしが遅い分、驚きも多そうだから、というのがその理由。
もちろん、原作の文句なしの素晴らしさと、
そのエッセンスをうまく抜き出し、
再構成した映画の脚本の素晴らしさは言うまでもなし。
「どっちが先か?」には悩むけど、「映画だけ」「小説だけ」は選択肢にはない。
順番はともかく、読むべし、そして観るべし、の傑作なのである。


Amazon.co.jp〈プラチナファンタジイ〉 奇術師


bk1オンライン書店ビーケーワン)↓

奇術師
奇術師
posted with 簡単リンクくん at 2007. 6.22
クリストファー・プリースト著 / 古沢 嘉通訳
早川書房 (2004.4)
通常24時間以内に発送します。