京都・木津川のワーナーマイカルシネマズ高の原で「ラッキー・ユー」

mike-cat2007-06-25



〝恋の最高の駆け引き
  ──それは何もしないこと。〟
「イン・ハー・シューズ」「8 Mile」
「L.A.コンフィデンシャル」カーティス・ハンソン最新作は、
ギャンブルのメッカ、ラスベガスのカジノを舞台に、
恋とポーカーと、人生を描く濃密なドラマだ。
ちなみに何で「高の原」かというと、
大阪周辺では、茨木か、堺浜か、ここか、というチョイスしかなかったから…


主演は「ミュンヘン」「ハルク」エリック・バナ
共演は「ラブソングができるまで」「チャーリーズ・エンジェル」ドリュー・バリモア
そして、「地獄の黙示録」(キルゴア中佐!)、
「ゴッドファーザー」の名バイプレーヤー、ロバート・デュバル
ハンソンとの共同脚本を手がけたのは「インサイダー」「ミュンヘン」エリック・ロス


2003年ラスベガス。
世界最高の賞金をかけた、ポーカーのワールド・シリーズ開催が迫っていた。
優れたポーカー・プレーヤーでありながら、
破滅型のギャンブル中毒者、ハック=バナは、大会参加の資金繰りに苦しんでいた。
ハックの父は、2度の世界王者に輝いた伝説のプレーヤー、LC・チーバー=デュバル。
母や自分を捨て、ギャンブルの世界に身を投じた男に、ハックはいまも怒りを抱いていた。
ある日、酒場で新人歌手のビリー=バリモアに出逢ったハックは、
その誠実な人柄に惹かれる一方で、ついつい資金をポーカーに回してしまう―


ストーリーの最大の焦点は、
やはりポーカー・プレーヤーとしてのハックの成長だろう。
優れた洞察力と読みの能力を持ちながら、
攻撃性を制御しきれず、超一流の壁を越えられない。
偉大な父との対立、そしてその父への複雑な想い…
「ポーカーではリスクを冒すくせに、人生の殻は破れない。それがお前だ」


そんなハックがビリーとの出会いで、破れなかった殻を破る。
そして、父を越えるべく、大きな勝負に挑んでいく―
これ以上ないほど、オーソドックスなストーリーでもある。
だが、それを名手ハンソンが撮ると、またひと味違ってくる。
主演のバナもスターのオーラには乏しいし、出演陣もやや地味、
そして演出もあくまでオールドファッション。だが、切れが違うのだ。
ポーカーを人生のメタファーに、勝負の緊迫感を重視した構成は、
静かでありながら、豊穣で見どころあふれる作品に仕上がっている。


ラストの余韻の味わい深さも、また一興だ。
因縁の勝負を終えたハックとLCが、再び始めるゲームの場面は、
まるで父と子のキャッチボールを見るようで、思わず胸が熱くなる。
ベタといえば、ベタだが、さすがハンソン、と思わずうなってしまうのだ。


ポーカーの世界の魅力を存分に描いた点でもこの作品は秀逸だろう。
テキサス・ドリーことドイル・ブランソン、アントニオ・エステファンディアリといった、
プロ・プレーヤーたちは、いずれも本人がカメオ出演し、
改装前の姿を再現したベラージオ・ホテル&カジノや、
ビニオン・カジノの〝ベニーズ・ブルペン〟といった、
ベガスの街のにぎわい以上に映画の華やかさをかき立てる。


映画で取り上げられるゲームは、テキサス・ホールデム
隠された2枚の手札と、場に置かれた札、そして最後に現れるリバーの1枚。
最初は知らなくても、作品序盤でうまく説明してくれるので、
そこらへんの勝負の妙なんかも、非常にわかりやすい。


ちなみに、舞台となった2003年はネット・プレーヤーの登場や、
手札カメラの導入など、ポーカーの世界に、劇的な変化を遂げた年だという。
時代が変化する中、滅びゆく恐竜となりつつある、
かつての名プレーヤーへの挽歌ともなっている点が、また味わい深いのだ。
「女房を質に入れても…」的なハックを始めとする、
ギャンブル狂たちも愛情たっぷりに描かれる。
豊胸手術を受け、半年間過ごす男や、
驚異の耐久ゴルフなどに大金を賭ける男たちは滑稽にして、どこか魅力的だ。


地味、と前述したが、脇を固める俳優陣もまた、抜群のチョイスである。
「ゾディアック」「チャーリー」のロバート・ダウニー・Jrや、
「アンタッチャブル」にチャールズ・マーティン・スミス、「さよなら、さよなら、ハリウッド」のデボラ・メッシング、
サタデー・ナイト・ライブの人気者、ホレイショ・サンズ
ここらへんのセンスもまた、作品のクオリティ向上に大きな効果を発揮してる。


ブルース・スプリングスティーンボブ・ディラン
ライアン・アダムスといった選曲のセンスも、これまた素晴らしく、
何から何まで、さすがカーティス・ハンソンとまたも唸らされる。
難をいうなら、もう10分どこかで短くしてもよかったかな、という部分。
思い入れたっぷりに描いた分、テンポ的には少々中ダレもあったかも。
しかし、それもあくまで小さな欠点に過ぎない。
地味ではあるが、キラリと光る傑作に、足どりも軽く劇場を後にしたのだった。