泉麻人「東京版アーカイブス―「あの頃のニュース」発掘」
〝「東京版」に記録された昭和を読む！〟
コラムニスト、泉麻人による、ひと味違った新聞クリップ。
〝昭和２０〜４０年代の朝日新聞から、
忘れられたニュースの数々を発掘。〟
１９９０年刊の「B級ニュース図鑑 (新潮文庫)」を、東京版で再現。
〝朝日新聞東京版の人気連載
「東京版博物館」待望の単行本化〟
以前、ＮＨＫのＢＳとかでやっていた、
昔のニュース映像を紹介するミニ番組が好きだった。
時代を感じさせる風景もさることながら、
しゃちほこばったアナウンスも何だか笑えて、当時の雰囲気を伝えてくれる。
新聞の縮刷版なんかも、そこらへんは同じ。
まず見る機会もないのだが、実際見てみると、いろいろと楽しいものだ。
泉麻人は「Ｂ級ニュース図鑑」でもそんな楽しさを伝えてくれた。
加えてこの泉麻人、どうも実家がかなり近いらしく、
落合だの、妙正寺川だの、なんて地名も登場し、
親しみやすいネタも多いため、昔から好きなコラムニストだった。
取り上げた時期が昭和２０〜４０年代ということで、
時代的にはややズレてしまうが、それはそれで魅力。
生まれてもいない当時を懐かしむような、不思議な感覚で読んでみる。
キーワードは、おおらかさと無神経さ、だろうか。
あくまで新聞というフィルターがかかっている以上、
記事を全部が全部、そのまんまに受け取ることはできないが、
そこから読み取れる当時の雰囲気は、そんな感じだ。
いわゆる〝普通〟に暮らしてきた人には、古き良き時代でもあるのだろう。
だが、一見のんびりともしているが、意外と弱者には容赦がない。
わかりやすい正義は叫ばれるが、声なき声は握りつぶされる。
どこかのどかさと野蛮さが混在した、時代だったのだと思う。
たとえば、昭和２８年の、
「うっかり食えぬサシミ 安全率は十回に一回」の記事。
衛生局の調べで、魚屋の刺し身から大量の大腸菌が検出された、という話題だが、
掲載されている２枚の写真が、何ともすごい。
「大腸菌のいなかった新宿区の魚屋さん」と「４４万個の菌がいた品川区の魚屋さん」
もちろん、検査結果の公開は必要だが、
このレイアウトで写真を出されたら、店にとっては死活問題だ。
いまだったら、訴訟ものだろうな、なんて、思わずドキドキしてしまう。
昭和３３年の「ソフトクリームの食べ方コンクール」も面白い。
伊勢丹新宿店でやっていたそうなのだが、
「衛生的観念を忘れずにしかもおいしそうに食べたお方が入選」だそうだ。
当時、やたらとコンクールが流行っていたそうだが、
単純明快な価値観に基づいた、大雑把な基準が何とも複雑な印象を残す。
昭和３７年の「ちょっと困った電柱」は、よくも悪くもおおらかさが際立つ。
側溝の真ん中に立つ「遠慮型」の電柱と、
〝道路の真中にデンとつっ立つ〟「威張りや」の電柱が取り上げられる。
この威張りやの電柱についての東電の阿佐ヶ谷営業所のコメントがすごい。
「全く気がつきませんでした」。
道の拡幅工事の関係らしいが、それにしても雑な話である。
昭和４１年の「君もスマートになれる 好評〝デブちゃん〟特訓」。
学校の校庭に設置された雲梯をめぐる話題だが、
デブちゃんって、見出しに書くなよ、という感じである。
ほかにも「〝デブっちょ〟追放に歩け歩け 渋谷区の小学校で大はやり」や、
「もやしっ子を退治」なんて記事もあるようで、
当時の（特に新聞記者の）感覚の無神経さがひしひしと伝わってくる。
昭和４５年の「カルダンにハイミスの抵抗」なんかもその典型で、
富士銀行（統合で現在はみずほ銀行）が、
ピエール・カルダン（！）デザインの新しい制服を導入した話題だが、
２０代後半でもうハイミス呼ばわりとは、時代が時代とはいえ、ひどい記事である。
いまでは死語となった言葉や、古風な表現も興味深い。
昭和４３年の「ふえるカーホステス ガソリンスタンド ミニ姿、客にも好評」。
２０歳前後の女性が「わたしの性分と好みにぴったり」なんて言葉を使う。
おそらく新聞記者が雑にメモを取って、うろ覚えで自分の言葉に換えたのだろう。
ツクリとまではいかないが、まあいかにも新聞記者っぽい。
新聞記者の（というか、新聞紙面の）言語センスは、
いまも昔も古くさい、というのが、よ〜く伝わってくる部分でもある。
まあ、そんな小難しいことはともかく、
当時の雰囲気を伝える記事のチョイスは抜群で、楽しく読める１冊。
できれば、新聞記事そのものがもっときちんと読めればうれしいが、
おそらくもとの縮刷版そのものが、だいぶかすれているからだろう。
また、４０〜６０年代の昭和後期の分で企画してくれれば、と思う。
まあ、バブル当時のなんかは、見ていて恥ずかしいのも多いのだろうが…
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