梅田ナビオTOHOプレックスで「ドレスデン、運命の日」

mike-cat2007-06-21



〝美しいその街は、一夜で崩壊した〟
「エルベのフィレンツェ」と謳われた、ドイツ東部のドレスデンで、
第二次世界大戦末期、数万人の犠牲者を出した大空襲を、
「トンネル」「Re:プレイ」のローランド・ズゾ・リヒターが映画化。
ドイツ人看護士の女性と、英国軍飛行士のロマンスを主軸に、
二次対戦中でも、最大の悲劇のひとつとなった「その日」を描く。
東京から何と2カ月遅れでの公開、
「まったく、もう!」とブツブツ文句を言いながら、
(それも、大嫌いな)梅田ナビオへ向かう。


第二次世界大戦も末期にさしかかっていた。
敗色濃厚となりながらも、いまだ抵抗を続けるドイツに対し、
英国軍は、ドイツ東部のドレスデン爆撃作戦を計画する。
その運命の日を目前に控えたドレスデンでは、
看護士のアンナが、恋人のアレクサンダー医師とともに、負傷兵の治療にあたっていた。
物資不足により、十分な薬品を支給されない、苦しい日々。
それでも、使命に燃える2人は、そんな毎日でも愛を深めていた。
だがある日、墜落した英国軍爆撃機から逃げ出した、
英軍飛行士ロバートが、2人の勤める病院に迷い込む。
図らずもそのロバートと遭遇してしまったアンナだったが―


「トンネル」同様、もとはドイツで製作され、数々の賞に輝いたTV映画。
ということで、時間をたっぷりと使い、要素をこれでもか、と詰め込んだ結果、
150分という長尺(「トンネル」の167分より短いが)に仕上がっている。
実直な作り、といえば実直な作りだし、
洗練されていない、といえば、正直洗練はされていない印象も強い。
だが、「トンネル」同様、ストレートを極めたドラマは、
その題材となった史実の重みもあって、どっしりとした見応えになっている。


そんなわけで、ややはばかられる表現でもあるが、見どころは満載である。
もちろん、美しき街を炎で焼き尽くした爆撃シーンは、涙なしには観られないし、
看護士アンナと英国軍兵士ロバートのロマンスや、
物資不足をめぐる疑惑の真相を探るミステリー的な要素もあって、
2時間半とはいえど、退屈しているヒマはそうそうない。


アンナを演じるフェリシタス・ヴォールもいい。
若い頃のメグ・ライアンをちょっとふくよかにしたような、
色っぽいファニーフェイスが、戦争の惨劇を強く生き抜くドラマは、
あまりにも定番でありながら、捨てがたい魅力を放つ。
アラン・ルドルフの「セックス調査団」にも出演していた、ロバート役のジョン・ライトや、
「カスケーダー」のハイナー・ラウターバッハといったあたりも、いい雰囲気を醸し出しており、
作品全体としてのクオリティも、なかなか高い佳作である。


もちろん、何よりも感慨深いのは、
戦後60年を経て、ようやくこうした〝敗戦国にとっての戦争〟描写が、
世界的にも、ある程度以上の市民権を得た、という部分だろうか。
ナチスへの反省とアレルギーからか、
なかなか「ドイツにも悲劇は存在した」という意見の表明はなかなか難しい。
「善き人のためのソナタ」や、前述の「トンネル」など、東西ドイツの悲劇ならまだしも、
〝戦争をしかけたドイツ〟にとっての悲劇は、自業自得、との視点で一蹴されてしまいがちだ。


おそらく、広島や長崎の原爆なんかですら、
実際の悲劇を知らない(本当に〝実際〟知っている人も少ないが…)人の間には、
「ジャップが仕掛けた戦争だから」という意見もあるんじゃないかと思う。
これだけの時間が経過し、直接の記憶が薄れかけた今だからこそ、
ヒステリー的な反応ではなく、ある程度冷静な描き方も可能になったと思う。


もちろん、作品は一方的にドイツにとっての悲劇だけを描くのではない。
ナチスにまつわるおぞましい記憶は避けては通れない部分だし、
ホロコーストをめぐる一連の描写についても、きちんと加えている。
その一方で、こんな場面もある。
天罰を騙り、爆撃を加える同僚の兵士を、ロバートがたしなめる。
だが、その同僚はこう反論する。
「おれの家族は、ドイツ軍の爆撃で殺されたんだ」
英国中部のコヴェントリーもまた、ドイツ軍の空襲で大きな被害を受けたのだ。


そんな意味でいえば、誰もが加害者であり、誰もが被害者なのである。
(もちろん、一番悪いヤツに限って、その被害を逃れているものだが…)
だからこそ、作品の最後で語られる言葉が身に染みる。
「この出来事を理解するのは難しい」
わかっているのは、それを繰り返してはいけない、という教訓、それだけだ。
じゃあ、どうすれば? というのがまた、難しい疑問だったりして、
こういう映画を観た後で必ず残る、複雑な余韻がこころにまとわりつく。


それでも、同様に東京大空襲(最近では、全然知らない人もいるのだろうか…)や、
ヒロシマナガサキを経験した国に生まれた者として、
やはり見逃すことのできない映画ではないか、と思う。
単純に娯楽映画、として評価するのもどうかと思うが、
その観点からだけ観ても、なかなか悪くない作品じゃないか、と。