藤原伊織「テロリストのパラソル (角川文庫)」

mike-cat2007-06-16



〝小説史上に燦然と輝く伝説の名作〟
この5月に逝去した著者を追悼し、角川文庫から再刊。
江戸川乱歩賞直木賞のダブルクラウンを手にした作品だ。
シリウスの道」なんかも気になりつつ、
まだ読んだことのなかったのだが、いまさら初挑戦。


過去を捨て、新宿の場末でバーテンを務める、アル中の島村。
真っ昼間から公園で酒に溺れる島村がある日、爆破事件に出くわす。
数十人の死傷者を出したその事件で、
島村はかつての友人と恋人の名前を見つける。
単なる偶然か、それとも…
島村の周囲を暗躍する暴力団、そして警察。
さっそく調査に乗り出した島村の前に、奇妙な符合が表出する―


読んで納得、というところだろうか。
主人公の島村のキャラクターも光ってるし、ほかの登場人物も味がある。
テンポもいいし、読みやすい一方で、
いわゆる団塊世代の大好きな、都合のいい世代論を、バッサリ斬る。
バランスはいいが、かといってまとまりすぎでもない、読ませる1冊である。


物語の冒頭、主人公は単なるアル中のバーテンに過ぎない。
だが、事件に巻き込まれ、過去が明らかになっていく中で、
その無頼な魅力がより強く輝いていく様は、一種のヒーローもののようでもある。
多少スーパーマン過ぎるきらいがあるのは、
まあエンタテインメント小説である以上、しかたのないことだろう。
それが過剰にご都合主義につながるのではなく、
むしろ主人公の魅力を膨らます方向で作用している以上、不満はない。


事件が展開していく中で出逢う、奇妙なやくざと、勝ち気な少女もいい。
島村の能天気さに困惑しつつも、助けずにはいられない。
それでついつい…、なんていろいろ手を焼く中で、
この2人と主人公のキャラクター的な魅力が、相乗効果をもたらしていくのだ。


12年前の小説ということで、
ネットや携帯などにまつわるエピソードが、時代を感じさせるものの、
だからといって、物語そのものは色褪せていないのもさすが、という感じ。
惜しむらくは、ラストだろうか。
ネタとしては悪くないと思うのだが、少々詰め込みすぎた感はある。
好みの問題かもしれないが、ちょっと切れを欠くような印象を覚えた。
まあ、あれだけ話を膨らませてしまったら、
最後でドーンといきたくなるだろうし、いかざるをえないのだろうけど…


とはいえ、いまさらながら面白かった、と言い切れる作品。
藤原伊織、「シリウスの道」あたりも、ちょっと手をつけてみたくなる。
そう考えると、もう新作が出ない、という事実は重くのしかかる。
自分が読んでいたからどうだこうだ、ということは当然ないのだが、
やっぱり惜しい人をなくしたのかな、と感慨にふけってもみるのだった。


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テロリストのパラソル
藤原 伊織〔著〕
角川書店 (2007.5)
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