ゾーイ・ヘラー「あるスキャンダルの覚え書き (ランダムハウス講談社文庫)」

mike-cat2007-06-15



〝「親友」になれると信じていた。
 なぜなら私は彼女の秘密を握っていたから―〟
ジュディ・デンチケイト・ブランシェット主演の映画原作。
あるスキャンダルについての覚え書き」を文庫化にあたり、ちょいと改題。
〝覚え書きにちらつく、孤独な女の師は意欲と嫉妬の影。〟
ブッカー賞の最終候補にも挙げられた、
映画とはまた、ひと味違うイヤ〜な風合いを醸し出す作品だ。


ロンドン郊外のセントジョージ総合中等学校。
厳格で皮肉屋のバーバラは、新任の陶芸教師シバ(映画ではシーバ)に心惹かれる。
人気者のシバを相手に、得意の策略を弄して友情を勝ち取ったバーバラ。
そんなシバは、大きなスキャンダルを抱えていた―
〝信用できない語り手〟バーバラの日記が物語る、欺瞞に満ちた物語。


先に映画を観てしまったせいで、
どうしてもデンチ&ブランシェットの演技のイメージが強いが、
小説は小説でこれがまた、やっぱり、な凄みすら感じさせる作品である。
何しろ、このバーバラである。
名女優デンチの演じるバーバラも、ある種のホラー的恐ろしさがあったが、
この小説の方は、ただひたすらにイタさが際立つ。


自分すら誤魔化し、虚飾にまみれた日記を綴る、孤独な老女。
中流階級に身を置きながら、どこか曲がった階級意識に浸る教師。
映画ではどうしてもデンチのイメージもあってか、
いくらかの理はあったかに見えたバーバラの姿も、
この小説から読み取れるのは、とにかく卑しさにどっぷり浸かった姿だ。
そんなバーバラが安全な場所に身を置き、
虚実を交えて書いた日記なのだから、どこまで信用していいのか…
そんな不安な気分もまた、この小説の味のような気がしてならない。


スキャンダルを抱えるシバも、映画以上にイタい感じなのが、
これまた、この小説のイヤ〜な風合いをさらに強めている。
映画ではやや抑えめだった、エキセントリックさと、自己評価の低さ。
この原作では、これでもか、とばかりに強調されている。
だから、スキャンダルそのものも、もっともっと穢れたイメージが強くなる。
まさにドロドロ…、といった感じなのである。


ラストも含め、映画の脚色は、思っていた以上に大胆だ。
原作のエッセンスを取り出しつつも、
違うメディア、違う表現となる映画ならではのイヤさをうまく創り出している。

個人的な好みで行くと、映画の方が好きなのだが、
この小説のバーバラ&シバも、捨てがたい〝魅力〟を放っている。
階級意識という、ふだん馴染みのないテーマなんかは、
小説の方がよく描けているというか、説明がきちんとなされている分、
わかりやすいのはむしろ小説の方なのかな、などとも思う。
どちらにせよ、映画は映画、小説は小説で違う楽しみ方ができる、さすがの逸品。
イヤ〜な感じをじっくりと楽しみ、不思議な余韻に酔うのだった。


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あるスキャンダルの覚え書き
ゾーイ・ヘラー著 / 栗原 百代訳
ランダムハウス講談社 (2007.6)
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