最相葉月「星新一 一〇〇一話をつくった人」

mike-cat2007-06-07



「憧れて小説家になったのではない。
 それ以外、道は残されていなかった」
絶対音感 (新潮文庫)」、「あのころの未来―星新一の預言 (新潮文庫)」の著者による、
ショートショートの神様」ともうたわれた、星新一の評伝。
〝製薬会社の御曹司、終生つきまとう“負の遺産”、
 創作の舞台裏、生き残りをかけた戦い……
 知られざる生涯をたどる、ノンフィクション大作〟
アイヌ研究で知られた人類学者・解剖学者の小金井良精を祖父に、
「昭和の借金王」とも揶揄された星製薬社長、星一を父に持ち、
SF界の黎明期を支えただけでなく、数多くの読者を魅了してきた、
日本SF界の巨人の生涯を、詳細な資料をもとに綴る、意欲作だ。


星新一。中学生になった当時だろうか、夢中になって読んだものである。
しかし、新刊が出るわけでもないので、
すぐ手に入る文庫を読み漁った挙げ句、その後はあまり読み返すこともなかった。
しかも、いまになって思い出そうとしても、中身はほとんど覚えていない。
そんなことがチラッと頭をよぎったものだが、
あとがきを読むと、思わずニヤリとしてしまう部分がある。
微妙に年代は違うのだが、著者の最相葉月も実はそんな感じだったらしい。
そこで思い返して、こんな本を書き上げてしまう作家と比べるのも、
ホントおこがましい限りだが、何だか勝手に共感も覚えてしまうのだ。


だが、そんな共感やノスタルジーだけで終わる、評伝ではない。
あの驚きに満ちたショートショートを数限りなく生み出した星新一の、
いままであまり知ることのなかった生い立ちや、
バラエティに富んだ人脈、そして奇行に満ちた「ほら男爵」ぶりに驚く一方で、
その裏に潜んだ苦労や、人知れず抱えていた苦悩がありありと再現される。


少年期の親一(星新一の本名)に大きな影響を与えた祖父や、
バイタリティに富んだ父の存在、そして大きな影を落とした戦争…
父の急逝で突然譲り渡された借金まみれの会社、
そして作家としての道を歩み出すまでの、さまざまな出会い。
SF作家・星新一が生まれるまでだけでも、ドラマに次ぐドラマがあふれている。


黎明期の日本SF界の様子なども興味深い。
小松左京筒井康隆を始めとする、誰でも知っている人名が次々と登場、
いかにして日本にSFが根づいていったのか、
そこで星新一はどんな役割を果たしたのか、読み応えは十分だ。
一方で、軽く読み流され、正当な評価を受けられない苦悩、
そして、怒濤の1001編を創り出すまでの、なみなみならぬ苦労。
切なさが漂う晩年の姿までも赤裸々に描き、とことん人間・星新一に迫っていく。
この面白さ、まさしくただ者ではない、といったところだ。


特定の風俗性やバックグラウンドを極力排して書かれているのが、
星新一ショートショートの特徴ではあるのだが、
そうした人間・星新一を知ってみると、それはそれでまた読み直してみたくなる。
実は読んでいるうちにもううずうずしてしまって、
久しぶりに文庫で「おせっかいな神々 (新潮文庫)」を買い直したのだが、
この本を読み終えた今、星作品はどんな印象を受けるのだろうか。
心沸き立つような思いで、いまいっぱいなのだ。


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星新一
星新一
posted with 簡単リンクくん at 2007. 6. 7
最相 葉月著
新潮社 (2007.3)
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