TOHOシネマズなんばで「ザ・シューター/極大射程」

mike-cat2007-06-01



〝合衆国VS孤高の狙撃手<シューター>〟
「このミス」1位など、各方面で絶賛の嵐を受けた、
スティーヴン・ハンターの大傑作、
極大射程〈上巻〉 (新潮文庫)」「極大射程〈下巻〉 (新潮文庫)」を、
「トレーニング・デイ」アントワーン・フークアがついに映像化。
主人公の名スナイパー、ボブ・リー・スワガーには、
「ディパーテッド」でオスカー・ノミネートを果たしたマーク・ウォールバーグ
思わぬ巻き添えを喰うFBI捜査官ニック・メンフィスには、
「クラッシュ」「ワールド・トレード・センター」マイケル・ペーニャ


ワイオミングの山中に愛犬とともに暮らす元スナイパー、ボブ・リー・スワガーのもとに、
ある日、ジョンソン大佐を名乗る男が、ある作戦依頼を携え、やってきた。
アフリカでの隠密作戦で、相棒のドニーを失ったボブは、海兵隊を退いていた。
大佐の依頼は、大統領の暗殺作戦の阻止。
そのために、実際の狙撃手の行動を予測し、シミュレーションを行うというものだった。
準備を終え、大統領の演説が行われるフィラデルフィアに出向いたボブだが、
そこで待ち受けていたのは、巧みに張り巡らされた、恐るべき陰謀だった―


原作を読んだときの興奮は、いまも覚えている。
時間を忘れ、ただひたすら朝になるまで読みふけった。
生涯のマイベストでも、間違いなくベスト20には入る傑作だと思う。
一時期、キアヌ・リーヴス主演で映画化、という話もあったが、
気づくとそんな噂も立ち消え、忘れた頃にマーク・ウォールバーグで映画化となった。


正直なところ、最初聞いたときは違和感も感じた。
キアヌ主演といっても、時代やキャラクターの設定から、
ボブ・リーではなく、ニック・メンフィス役だと思っていたので、
キアヌ版が実現したら、クリント・イーストウッド(歳取りすぎ?)、
エド・ハリス(やや声が高すぎ?)、デービッド・モース(やや鈍重っぽい?)、
ニック・ノルティ(悪人顔が染みついた?)、ビリー・ボブ・ソーントン(線が細いか?)、
いやいっそのこと、思い切って、デンゼル・ワシントン? 
なんて感じで、いろいろ想像も膨らんだのだが、
時代設定もボブ・リーの年齢も大きく変えて、あの「猿の惑星」マーキー・マークである。
二番煎じでもいいから、あの「山猫は眠らない」トム・ベレンジャーが演じた方が…
最初は、そうも思った。


しかし、これが意外と、アレなのである。
悪くない。いや、ウォールバーグはウォールバーグでかなりいい。
ドッシリかまえた、寡黙なスナイパー、というイメージとは一変、
原作の持っていた〝静〟の重厚感、緊迫感ではやや見劣りもするが、
切れのいいアクションや、スピード感という〝動〟の部分では、なかなかハマっている。
「レッド・プラネット」「ディアボロス」のジョナサン・レムキンによる脚本も、
映像化と主役のイメージ変更に合わせてか、うまくその〝動〟の部分をクローズアップし、
原作とはひと味違う魅力を、作品にもたらしている。


不満がないわけではない。
愛犬サムをめぐる描写は正直かなり物足りないし(かなり重要なはずだが…)、
ドニーの元妻サラも、演じたケイト・マーラはなかなか色っぽくてかわいいのに、やや印象不足。
クライマックスにかけてがやや駆け足っぽくて、あっけない印象も残る点など。
文句のつけようのなかった原作と比べると、
ボリューム的な制約を考えても、あまり高得点、というわけにはいかないだろう。


それでも、全体的には、映像用の大胆な翻訳はおおむね成功した、というところだろうか。
あの原作のイメージにこだわってしまうとだいぶ苦しい面もあるが、
原作をうまく使った別物作品と思えば、けっこう楽しめる映画に仕上がっている。
クリント・イーストウッド=ボブ、キアヌ・リーヴス=ニックで製作していたら… の思いは、
どうしてもぬぐい切れない部分もあるのだが、
それはそれでもう一度原作を読みつつ、イメージを重ね合わせればいい。
ウォールバーグの健闘をたたえて、まずは合格点をさし上げたいと思う。