TOHOシネマズなんばで「ザ・シューター/極大射程」
〝合衆国VS孤高の狙撃手<シューター>〟
「このミス」1位など、各方面で絶賛の嵐を受けた、
スティーヴン・ハンターの大傑作、
「極大射程〈上巻〉 (新潮文庫)」「極大射程〈下巻〉 (新潮文庫)」を、
「トレーニング・デイ」のアントワーン・フークアがついに映像化。
主人公の名スナイパー、ボブ・リー・スワガーには、
「ディパーテッド」でオスカー・ノミネートを果たしたマーク・ウォールバーグ、
思わぬ巻き添えを喰うFBI捜査官ニック・メンフィスには、
「クラッシュ」、「ワールド・トレード・センター」のマイケル・ペーニャ。
ワイオミングの山中に愛犬とともに暮らす元スナイパー、ボブ・リー・スワガーのもとに、
ある日、ジョンソン大佐を名乗る男が、ある作戦依頼を携え、やってきた。
アフリカでの隠密作戦で、相棒のドニーを失ったボブは、海兵隊を退いていた。
大佐の依頼は、大統領の暗殺作戦の阻止。
そのために、実際の狙撃手の行動を予測し、シミュレーションを行うというものだった。
準備を終え、大統領の演説が行われるフィラデルフィアに出向いたボブだが、
そこで待ち受けていたのは、巧みに張り巡らされた、恐るべき陰謀だった―
原作を読んだときの興奮は、いまも覚えている。
時間を忘れ、ただひたすら朝になるまで読みふけった。
生涯のマイベストでも、間違いなくベスト20には入る傑作だと思う。
一時期、キアヌ・リーヴス主演で映画化、という話もあったが、
気づくとそんな噂も立ち消え、忘れた頃にマーク・ウォールバーグで映画化となった。
正直なところ、最初聞いたときは違和感も感じた。
キアヌ主演といっても、時代やキャラクターの設定から、
ボブ・リーではなく、ニック・メンフィス役だと思っていたので、
キアヌ版が実現したら、クリント・イーストウッド(歳取りすぎ?)、
エド・ハリス(やや声が高すぎ?)、デービッド・モース(やや鈍重っぽい?)、
ニック・ノルティ(悪人顔が染みついた?)、ビリー・ボブ・ソーントン(線が細いか?)、
いやいっそのこと、思い切って、デンゼル・ワシントン?
なんて感じで、いろいろ想像も膨らんだのだが、
時代設定もボブ・リーの年齢も大きく変えて、あの「猿の惑星」マーキー・マークである。
二番煎じでもいいから、あの「山猫は眠らない」のトム・ベレンジャーが演じた方が…
最初は、そうも思った。
しかし、これが意外と、アレなのである。
悪くない。いや、ウォールバーグはウォールバーグでかなりいい。
ドッシリかまえた、寡黙なスナイパー、というイメージとは一変、
原作の持っていた〝静〟の重厚感、緊迫感ではやや見劣りもするが、
切れのいいアクションや、スピード感という〝動〟の部分では、なかなかハマっている。
「レッド・プラネット」、「ディアボロス」のジョナサン・レムキンによる脚本も、
映像化と主役のイメージ変更に合わせてか、うまくその〝動〟の部分をクローズアップし、
原作とはひと味違う魅力を、作品にもたらしている。
不満がないわけではない。
愛犬サムをめぐる描写は正直かなり物足りないし(かなり重要なはずだが…)、
ドニーの元妻サラも、演じたケイト・マーラはなかなか色っぽくてかわいいのに、やや印象不足。
クライマックスにかけてがやや駆け足っぽくて、あっけない印象も残る点など。
文句のつけようのなかった原作と比べると、
ボリューム的な制約を考えても、あまり高得点、というわけにはいかないだろう。
それでも、全体的には、映像用の大胆な翻訳はおおむね成功した、というところだろうか。
あの原作のイメージにこだわってしまうとだいぶ苦しい面もあるが、
原作をうまく使った別物作品と思えば、けっこう楽しめる映画に仕上がっている。
クリント・イーストウッド=ボブ、キアヌ・リーヴス=ニックで製作していたら… の思いは、
どうしてもぬぐい切れない部分もあるのだが、
それはそれでもう一度原作を読みつつ、イメージを重ね合わせればいい。
ウォールバーグの健闘をたたえて、まずは合格点をさし上げたいと思う。