クリストファー・プリースト「双生児 (プラチナ・ファンタジイ)」

mike-cat2007-05-24



〝英国SF協会賞 アーサー・C・クラーク賞受賞〟
〈プラチナファンタジイ〉 奇術師 (ハヤカワ文庫 FT)」、「魔法 (ハヤカワ文庫FT)」に続く、最新作。
〝SF/ミステリ/海外文学界から圧倒的な支持を集める
 物語の魔術師が贈る“もっとも完成された小説”〟
ヒュー・ジャックマンクリスチャン・ベール主演の映画、
プレステージ」の公開も間近な、プリーストによる話題作だ。
〝激しく対立する二人の男が立たされる人生の岐路――
 それは、滔々たる歴史の流れからすれば、ほんの小さな点にすぎない。〟
第二次世界大戦末期のヨーロッパを舞台に、
歴史の大きな流れに翻弄される、一組の双子を描いた、一大エンタテインメント。



1999年 イングランド中部、ダービシャー州バクストン。
新刊のサイン会を開いていた、歴史ノンフィクション作家、
スチュワート・グラットンのもとに届けられたのは、二次大戦中の英国空軍大尉の回顧録
その男、J・L・ソウヤーこそ、グラットンが追い求めていた、
かのウィンストン・チャーチルの手記に登場する、歴史上の謎の人物だった。
良心的兵役拒否者でありながら、現役の英空軍爆撃機操縦士。
ベルリン五輪、そしてロンドン大空襲…。ソウヤーを語り部に展開する、壮大な歴史絵巻。
ヒトラーの副官ルドルフ・ヘス、そしてチャーチルが歴史の舞台で踊る。
ジャックとジョー、同じイニシャルを持つ二人の男がたどった数奇な運命。
戦争、そしてひとりの美しい女性が、ふたりを分かつとき、歴史も…
歴史の大きな転換点となった1941年5月10日に、いったい何が起こったのか―


実は、読み始めるまでにちょっと時間をおいていた。
引っかかっていたのは、解説にある大森望の名前。
どうもこの人の翻訳であったり、一押し本であったり、というのに、あまり相性がよくない。
文学賞めった斬り」なんかは大好きだし、そこで語るスタンスにも好意は持っているのだが、
ことこの人の翻訳本や、推薦本となると、常々一歩引いてしまうのだ。


だが、この本に関しては、そうした先入観はまったく関係ない。
ひと癖も二癖もある作品ではあるが、その面白さたるや、年に数冊あるかないかのレベル。
ハリー・ボッシュのシリーズを担当する古沢嘉通の翻訳がいいのだろう。
この難解にこんがらがった物語が、グイグイと引き込まれるような感覚で進んでいく。
何かがおかしい、何かがおかしい…
絶えず沸き起こる疑念と、あっと驚くような、奇抜なカラクリ。
まさしく魔術を思わせる、ミスディレクション、そしてリセットされる現実は、
読む者を、まるで壮大な騙し絵を見ているような不思議な感覚に陥れる。


解説によると、テクニカルな分類では?改変歴史SF?となるらしい。
あやしげな史料や、信頼できない語り手が織りなす、もしもの歴史。
そのパラレルワールドが、読み進めば読み進むほど、錯綜していく。
マダガスカル、3次大戦…
うろ覚えで知っている歴史とどこか違和感を感じさせる、奇妙な史実に惑う。
一卵性双生児が語る、食い違う出来事。
チャーチルヒトラー、ヘス、ゲッペルスといった面々が、
さらなる迷宮へと読む者を誘い込んでいく。


そして迎える、複雑な余韻を残す結末。
バラバラにされた史実が微妙に曖昧なまま、目の前に横たわる。
たいした読解力もない、落ちこぼれ読者ではあるが、それでもその凄みは伝わってくる。
そこに供された、壮大な幻想にはただただ驚かされ、感心するしかない。
しばし、解説と本文を何度も見返し、そのタネ明かしを楽しむ。
そこで再び、この作品の持つ不思議な魅力を思い知るのだ。


Amazon.co.jp双生児


bk1オンライン書店ビーケーワン)↓

双生児
双生児
posted with 簡単リンクくん at 2007. 5.25
クリストファー・プリースト著 / 古沢 嘉通訳
早川書房 (2007.4)
通常2-3日以内に発送します。