ジョン・クリード「ブラック・ドッグ (新潮文庫)」

mike-cat2007-05-17



〝50年前の認識票(ドッグ・タグ)、
 遺された二つの謎の言葉、
 全てを結ぶ謀略とは?〟
英国の元秘密諜報部員が活躍する、
スパイ・アクション&サスペンスのシリーズ第3弾。
〝CWA賞受賞作家による冒険小説の王道!〟
受賞作の「シリウス・ファイル (新潮文庫)」はおろか、
前作「シャドウ・ゲーム (新潮文庫)」も読んでいないのだが、
カバーイラストに惹かれ、とりあえず読んでみることにする。


ベルファストで打ち上げられた、50年前の水兵のドッグ・タグ。
水兵の弟で友人のジミー・カーから、検視の立ち会いを頼まれた、
元英国秘密諜報部員で、現在は美術品ディーラーのジャック・ヴァレンタイン。
だが、検視審問は国防相の代理をうたう勅撰弁護士によって、強引に延期された。
陰謀の臭いを嗅ぎ取り、調査を始めたジャックは、突然の銃撃に巻き込まれる。
犠牲者が遺した言葉「ブラック・キャット」、そして浮かび上がった「ブラック・ドッグ」。
錯綜する情報、まとわりつく過去の因縁…
どす黒い陰謀がジャックの周囲に張りめぐらされていく―


ジャックの過去を知らないで読み始めたのだが、
序盤からところどころに説明が加えてあって、物語には比較的入りやすいl。
この作品も、ドッグ・タグや「ブラック・ドッグ」の言葉の謎解きを縦軸に、
諜報部時代の過去の因縁がそのまんま物語の横軸になっているのだが、
ジャックの立ち位置は、序盤できっちりと示される。
〝ここ一年ほど、わたしは過去の呪縛から逃れたという印象をいだいていた。
 だが今は、自分を欺いていたのだと分かる。〟
立ちはだかるのは、諜報部MRUの前局長ジョージ・サマヴィル。
極秘裏に裏工作や破壊工作を仕掛ける、ジャックの元上司である。


そんな状況で、ジャックはまんまと危険に足を踏み入れる。
〝わたしの人生には、まずい判断が掃いて捨てるほど転がっている〟
まずいところに、まずいタイミングで出くわすのは、どうもジャックの得意技。
気づけば危険の中にどっぷりと浸かってしまっている、という始末だ。
「どうせ、わたしたちは二十世紀に絶滅しているはずの恐竜なのさ」
スパイが生きづらい世の中に、ちょっとした愚痴を漏らしながらも、
自ら足を踏み入れた銃弾の嵐の中で、生き生きとしている姿が何とも皮肉だ。


唐突な銃撃の連続に加え、裏切りに次ぐ裏切り。
正直、読んでいてストーリーを追うのがやっと、という感じで、
そこそこ叙情的な描写は多いのに、どこかせわしない印象はぬぐえない。
すべてのネタが明かされる終盤の展開も、
少々無理があるような気もして、一気に読めた割には満足感は微妙。
シリウス・ファイル」から読み始めていたら、また印象も違うのかもしれないが、
何となく乗り切れないまま、物語は幕を閉じてしまったのだった。


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ブラック・ドッグ
ジョン・クリード〔著〕 / 鎌田 三平訳
新潮社 (2007.5)
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