海堂尊「ジェネラル・ルージュの凱旋」

mike-cat2007-05-05



〝「チーム・バチスタの栄光」「ナイチンゲールの沈黙」に続く田口・白鳥コンビ最新刊〟
驚異的なハイペースで刊行される、シリーズ〝第4弾〟
〝ドクター・ヘリ導入を悲願とする救命救急センター部長をめぐる疑惑
 シリーズ最高傑作のメディカル・エンターテインメント!〟
〝血まみれ将軍〟もしくは〝赤字将軍〟を意味する、
ICUの天才外科医、ジェネラル・ルージュをめぐる騒動を描く。
螺鈿迷宮」で大いなる失望を味わわせてくれたシリーズだけに、
もう手に取る気もなかったのだが、
各方面での「本当に傑作」とのレビューを拝見し、ようやく読んでみることにする。


物語は「螺鈿迷宮」の前日譚にして、「ナイチンゲール〜」とは同時進行の物語。
伝説の歌姫が入院し、騒がしい東城大学医学部付属病院にまたも問題が持ち上がる。
不定愁訴外来通称〝愚痴外来〟田口の同期で、
ICU救命救急センター部長の〝ジェネラル・ルージュ〟速水に、
特定業者との癒着を指摘する、匿名の内部告発書が浮上した。
田口を目の敵にする倫理問題審査委員会<エシックス・コミッティ>に、
コストカットしか頭にない、ハーバード帰りの事務屋もからみ、騒動は拡大していく。
そして投入されるのは、最悪最凶の最終兵器〝火喰い鳥〟白鳥だった―


患者の愚痴をひたすら聞くだけ、の不満分子患者を丸め込む天才。
愚痴外来のグッチー先生こと、田口の安寧な日々は過ぎ去った。
バチスタ・スキャンダルでの活躍が仇になり、
リスクマネジメント委員会の委員長を押しつけられた田口が立ち向かうのは、
救急医療の現場を取り仕切る天才にして、同期の速水をめぐるスキャンダルだ。


駆け出しの頃に起こった、城東デパート火災の際の活躍は、
いまも伝説として残る〝ジェネラル・ルージュ〟を田口がどう守るか、が物語の軸である。
そして、その物語の最大の求心力となるのが、速水のキャラクターだろう。
その腕は最高との称賛を受けながら、その独断専行ぶりから敵も多い速水だが、
患者の立場にたってみれば、これほどたくましい医者もいないはずだ。
採算性に劣る救急病棟への締め付けを強める経営サイドや、
倫理倫理と鈴虫のように、小理屈のための小理屈ばかりをこねまわす倫理委員会との軋轢。
医療現場の矛盾や問題点と戦いつつ、救急医療に身を投じる姿が頼もしい。


そんな速水の窮地に立ち上がるのが、われらが愚痴外来の田口に、
城東大学病院の〝老害ペア〟古ダヌキの高階院長&古株の強者藤原看護師、
病院開闢以来の横着者と知られる〝眠り猫〟の猫田師長、
そしてもちろん、ロジカル・モンスターの白鳥に、〝氷姫〟姫宮の面々だ。
ここ2作ほどは、その濃いキャラクターを使いこなせず、
ユルいストーリーでシリーズの魅力を踏みにじってきた作者だが、
今回は、その濃さとストーリーのバランスをうまく取って、作品の質向上を図っている。


「バチスタ」の魅力のひとつでもあった、
アクティヴ・フェーズを駆使する白鳥のディベート場面も、今回は見どころ満載。
序盤からのスピーディーな展開と、医療をめぐる現状へのさまざまな問題提起が、
圧倒的な盛り上がりをクライマックスが絶妙にかみ合って、思わず夢中になってしまう。


こういう作品が読みたかったんだ! とも、
やればできるんじゃない! ともいいたくなるような、まさにシリーズ最高傑作。
可能なら「ナイチンゲール」も「螺鈿迷宮」も、もう一度リライトして欲しくなるような、
作者の潜在能力の高さを、あらためて証明したような気がする。
次回作、1年でも2年でも待つので、ぜひこのクオリティで、と切望するのだった。


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ジェネラル・ルージュの凱旋
海堂 尊著
宝島社 (2007.4)
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