山本幸久「美晴さんランナウェイ」

mike-cat2007-05-04



〝叔母さんは、トラブルとともにやってくる〟
山本幸久最新作は、はた迷惑な叔母さんと、
生真面目な中学生、世宇子の交流を描く、ハートフルコメディ。
〝27歳未婚。定職ナシ。男を見る目ナシ。
 いつも厄介を引き起こしては投げ出して―〟
逃げ足だけは一級品のトラブルメーカーが巻き起こす騒動の数々。
〝「笑う招き猫」の山本幸久が描く“居候美女”の痛快爽快・逃げっぱなし人生!〟


この春、中学校に進学した世宇子の叔母〝美晴さん〟は、
古書店のバイトを適当にこなす、27歳・未婚のトラブルメーカー。
つねに騒動を巻き起こし、ここ一番では抜群の逃げ足を見せる美晴さんに、
オカルト好きの小学生の弟、翔とともに、迷惑をかけられっぱなしの世宇子。
従兄の自由へのほのかな恋心に悩みつつ、世宇子の毎日は続く―


作品の核となるのは、もちろん美晴さんのキャラクターだ。
世宇子の父の、歳の離れた妹で、政治的に不適切な表現だと〝いかず後家〟。
母の醸し出す微妙な緊張感には、てんで無頓着。
中学生や小学生からも借金を踏み倒す、という、まさにはた迷惑な人物。
まあ、叔父さん、という設定だと、よく小説に登場するタイプである。


社会性はまるでない。
〝美晴さんはほぼ毎朝十時に、土日祝日かまわず、
 勤め先というかバイト先の幕間堂書店へ電話をいれ、
 「今日、あたし必要でしょうか?」なんてことを呑気にきく。〟
いわゆる、モラトリアムを生きる27歳である。


だから、生真面目な中学生、世宇子の目から見れば、許せない存在だ。
「まずいことあると、ぷいってどっかいちゃってさ。逃げちゃうの。
 ちょっとしたおみやげでも買ってくれば問題が解決すると思ってる。
 甘えてるんだよ。駄目だよ。許さない。
 逃げてばっかしいる美晴さん、絶対に許してやんない」
だが、厳しく指摘する世宇子に、美晴さんは平気で言い放つ。
「逃げてないよ」「追いかけてるの」
「え? なにを」。問い返す世宇子。
「さあ。なにかな」。一事が万事、こんな調子なのだ。


個人的には、あまり好きになれないタイプである。
小説の世界なんかでは、都合のいいときだけ、美味しくカッコつけようとする。
何もしていないクセに「将来はビッグに」と抜かすアホと何ら変わらない。
この作品の中では、行動もさも意味ありげに描写されているが、
まあ、それをよしとするかどうかは、評価も分かれるところだと思う。
弾けっぷりが足りないし、痛快でもなければ、爽快でもない。
正直、あまり魅力的とは思えない。


だが、そんな美晴さんを見守る、世宇子の物語は悪くない。
ルーズな大人にげんなりし、憤りをぶつけていく中で、
次第に世の中との距離感や、肩の力の抜き方なんかを覚えていく世宇子の姿は、
どこか微笑ましいし、作者独特の淡いペーソスっぽいものもにじみ出てくる。
美晴さんの母に当たる、世宇子のお祖母ちゃんも、絶妙な味つけになっていて、
美晴さんのキャラクターの甘さにも関わらず、作品そのものはなかなかだ。
文庫で十分といえば、十分だが、読んでみても悪くない1冊だとは思う。


Amazon.co.jp美晴さんランナウェイ


bk1オンライン書店ビーケーワン)↓

美晴さんランナウェイ
山本 幸久著
集英社 (2007.4)
通常24時間以内に発送します。