マシュー・ボグダノス、ウィリアム・パトリック「イラク博物館の秘宝を追え―海兵隊大佐の特殊任務」

mike-cat2007-05-03



〝史上最大の略奪事件を古典を愛するタフガイが解決!〟
2003年4月、バグダッド陥落―
暴徒と化した市民は、国立博物館から数々の秘宝を略奪。
テロリストへの武器や資金提供の流れを断つべく、
また、人類の宝ともいうべき、メソポタミアの至宝を取り戻すべく、
米軍は統合超機関調整グループ(JIACG)の設置を決めた。


〝知られざる超機関エリート部隊を率い、
 失われた「人類共通の遺産」を奪還した著者が、驚くべき冒険をつぶさに語る〟
部隊を率いた著者、ボグダノスはNY生まれのNY育ち、
マンハッタン地方検事補にして、海兵隊予備役大佐。
ブロンズスター勲章、人文科学勲章を受章した強者だ。
インディ・ジョーンズさえ、ボグダノスの経歴の前では萎縮する。
             ―USニュース&ワールド・リポート〟
文化遺産をめぐる、砂漠での驚くべき戦いがいま、再現される―


バグダッド陥落にまぎれた秘宝略奪そのものは、恐ろしい事件だが、
超機関エリート部隊による、奪還作戦と聞いたら、思わず胸が躍る。
FBIに陸海空軍、海兵隊というまさにオールスターが取り戻すのは、
これまた、まさしくオールスター級という貴重な遺産、ということとなる。
世界最古の石刻祭器「ワルカの聖壺」に、
人の顔を写実的に描写した最初の彫刻「ワルカの仮面」、
ウルの女王シュブ−アドの「黄金の竪琴」を飾る黄金の牡牛頭…
次々と挙げられるメソポタミアの〝最高ヒット作〟だけでも、卒倒しそうだ。


そして、その語り手でもある、
ちょっと風変わりな海兵隊員、ボグダノスも、なかなか魅力的なキャラクターだ。
軍人でありながら、ヘロドトスソクラテスなどを引用する、古典愛好家。
あの9・11当時は、グラウンド・ゼロからわずか数ブロックに住んでいたという。
家族とともに厄災を逃れた経緯や、その後すぐのアフガニスタンでの任務、
またはギリシャ系としての生い立ちから、軍に身を投じるまでの物語はまさに波瀾万丈である。


そんな魅力的な素材をかき集めたノンフィクション。
さぞや…、ということなのだが、これが不思議なことに、意外に盛り上がらない。
まず一因は、構成だろう。
ボグダノスのバックグラウンドや、9・11アフガニスタン…、
冒頭をのぞくと、イラクにたどり着くまでで、実に本の3分の1を使ってしまっている。
確かに大事な要素ではあるのだが、読みたいのは特殊部隊の物語で、
主役とはいえ、その1メンバーだけでここまでページを割かれてはたまらない。


ようやくイラクにたどり着くと、
こんどは米軍内でのいざこざにメディアとの軋轢が延々と続く。
いわゆる高官による圧力や、メディアの誤報に次ぐ誤報など、
これまた面白い要素ではあるが、それも過ぎたるは…、の世界である。
さあ、奪還作戦、と思うと、国立博物館スタッフを始めとする、イラク側との軋轢…
もちろん、ノンフィクションである以上、
血わき肉躍る大冒険を創造するわけにはいかないが、
読む方としての期待はそこにあるわけで、インディ・ジョーンズまでいかなくても、
せめて特殊部隊ならでは、の奪還作戦のひとつも読みたくなるのが人情だ。


必要以上に古典の引用にこだわり、まるで論文のような筆致で描き上げるスタイルも微妙。
どこか、コンプレックスを抱えたマッチョが、意地になって小難しく書いている印象だ。
臨場感もないし、何だか文章は読みにくい、というわけで、
盛り上がろうとする気持ちを再三にわたって肩透かししながら、最後まで進行する。
あとがきにある提言なんかも、まことに有意義なものとは思うのだが、
読み終わって残るのは、満足感より徒労感の方が正直強い。
もう少し何とかならなかったのか…。もったいないな、と思うのだった。


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イラク博物館の秘宝を追え
マシュー・ボグダノス著 / ウィリアム・パトリック著 / 嶋田 みどり訳
早川書房 (2007.4)
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