ブライアン・フリーマン「インモラル (ハヤカワ・ミステリ文庫)」

mike-cat2007-03-24



〝町中の男達は皆その女子学生の虜になった。
 忽然と消えた彼女は、義理の父に殺されたのか?
 やがて明らかになる淫らな真実とは?〟
マカヴィティ賞最優秀新人賞受賞にして、
アメリカ探偵作家クラブ賞(MWA賞)の最優秀新人賞最終候補作。
オビには思わずうなるような名前が踊る。
マイクル・コナリー どんでん返しの連続に翻弄されっぱなし〟
ジェフリー・ディーヴァー こんなサスペンスは見たことがない〟
官能+売れっ子作家の惹句、もうこれだけで〝買い〟だろう。


舞台はスペリオール湖畔の街、ミネソタ州ダルース
街中の男たちを魅了し、虜にしていた美少女レイチェルが、忽然と姿を消した。
ダルース警察のストライドは、わずかに残された痕跡が、義父を指さしていることに気づく。
捜査が進むに連れ、明らかになる暗い闇。
そして、人々は悪夢の真相へと近づいていく―


巧妙なミスディレクションが織り込まれたプロローグから、
二転三転のツイスト、そして味わい深いラストへ―
コナリーの言葉じゃないが、まさに〝翻弄されっぱなし〟だ。
美しく、邪悪な少女が街に響かせた不協和音は、
淫蕩で奔放な十代の少女、という背徳の香りを漂わせ、
さまざまな人々の人生を巻き込みながら、次第に大きなうねりとなっていく。


レイチェルと、母エミリーの間に横たわる、埋めようのない溝、
レイチェルに魅せられ、利用された哀れな少年ケヴィン、
そして、疑惑に満ちた義父グレイム、それぞれが秘密を、闇を抱える。
真相は霧の中に隠れたまま、法廷へと持ち込まれ、さらなる謎を呼び起こす。
やり手弁護士と、野望にあふれた検事のはざまで、振り回されるストライド
その戸惑いの描写も、コクのあるドラマに仕立て上げられている。


官能を謳うだけに、お色気シーンももちろん豊富に盛り込まれている。
とはいえ、十代の少女の直接的な性描写に関しては、
そのへん、日本より遙かに高いモラル・コードを持つアメリカだけに、あまりない。
男やもめのストライドがたどる、迷走ともいえる遍歴が、適所適所で登場する。
別にポルノじゃないが、これもまた、なかなかにいい感じだ。


だが、この小説の最大の魅力は、やはりレイチェルだろう。
レイチェルに惑わされ、破滅への道をたどった男の言葉が身に沁みる。
天国の門の鍵を持ってるような感じだったんだ。わかるか?
 ところがある日、錠前を取り替えられてしまった。
 そして振り返ると、何もかも捨て、まわりのみんなを破滅させてしまったことに気づくんだ。
 幻想のために。」
世に恐ろしきは、やはり若き悪女なのだろうか。
それでも、溺れていく男の性に、哀しさすら覚えながら、本を閉じるのだった。


Amazon.co.jpインモラル


bk1オンライン書店ビーケーワン)↓

インモラル
インモラル
posted with 簡単リンクくん at 2007. 3.20
ブライアン・フリーマン著 / 長野 きよみ訳
早川書房 (2007.3)
通常24時間以内に発送します。