ブライアン・フリーマン「インモラル (ハヤカワ・ミステリ文庫)」
〝町中の男達は皆その女子学生の虜になった。
忽然と消えた彼女は、義理の父に殺されたのか?
やがて明らかになる淫らな真実とは?〟
マカヴィティ賞最優秀新人賞受賞にして、
アメリカ探偵作家クラブ賞(MWA賞)の最優秀新人賞最終候補作。
オビには思わずうなるような名前が踊る。
〝マイクル・コナリー どんでん返しの連続に翻弄されっぱなし〟
〝ジェフリー・ディーヴァー こんなサスペンスは見たことがない〟
官能+売れっ子作家の惹句、もうこれだけで〝買い〟だろう。
舞台はスペリオール湖畔の街、ミネソタ州ダルース。
街中の男たちを魅了し、虜にしていた美少女レイチェルが、忽然と姿を消した。
ダルース警察のストライドは、わずかに残された痕跡が、義父を指さしていることに気づく。
捜査が進むに連れ、明らかになる暗い闇。
そして、人々は悪夢の真相へと近づいていく―
巧妙なミスディレクションが織り込まれたプロローグから、
二転三転のツイスト、そして味わい深いラストへ―
コナリーの言葉じゃないが、まさに〝翻弄されっぱなし〟だ。
美しく、邪悪な少女が街に響かせた不協和音は、
淫蕩で奔放な十代の少女、という背徳の香りを漂わせ、
さまざまな人々の人生を巻き込みながら、次第に大きなうねりとなっていく。
レイチェルと、母エミリーの間に横たわる、埋めようのない溝、
レイチェルに魅せられ、利用された哀れな少年ケヴィン、
そして、疑惑に満ちた義父グレイム、それぞれが秘密を、闇を抱える。
真相は霧の中に隠れたまま、法廷へと持ち込まれ、さらなる謎を呼び起こす。
やり手弁護士と、野望にあふれた検事のはざまで、振り回されるストライド。
その戸惑いの描写も、コクのあるドラマに仕立て上げられている。
官能を謳うだけに、お色気シーンももちろん豊富に盛り込まれている。
とはいえ、十代の少女の直接的な性描写に関しては、
そのへん、日本より遙かに高いモラル・コードを持つアメリカだけに、あまりない。
男やもめのストライドがたどる、迷走ともいえる遍歴が、適所適所で登場する。
別にポルノじゃないが、これもまた、なかなかにいい感じだ。
だが、この小説の最大の魅力は、やはりレイチェルだろう。
レイチェルに惑わされ、破滅への道をたどった男の言葉が身に沁みる。
「天国の門の鍵を持ってるような感じだったんだ。わかるか?
ところがある日、錠前を取り替えられてしまった。
そして振り返ると、何もかも捨て、まわりのみんなを破滅させてしまったことに気づくんだ。
幻想のために。」
世に恐ろしきは、やはり若き悪女なのだろうか。
それでも、溺れていく男の性に、哀しさすら覚えながら、本を閉じるのだった。