森奈津子「踊るギムナジウム」

mike-cat2007-03-12



西城秀樹のおかげです (ハヤカワ文庫 JA)」の森奈津子最新作。
〝性愛の夢想人が贈る、笑撃のゲイ・コメディ集〟
百合コメディ「姫百合たちの放課後 (Book of dreams)」の姉妹編にも当たる、薔薇コメディ。
〝ぼくは恥じてない!
 ただ、美しく清らかな人を心から愛しただけだ!〟
男に恋してしまった男の苦悩と悲哀をコミカルに描く短編集だ。


「魔女っ子ロージー −−男色ドッキリ大作戦!の巻」は、
魔法使いサリー」や「魔女っ子メグ」など、かつて一世を風靡した、
魔法使い系少女アニメを模し、悪戯な魔女っ子と、恋に目覚めたゲイ少年のドタバタを描く。
憧れの彼(ノンケ)に夢想する少年の願いを叶えるべく、
ロージーがかける魔法の数々は、とことんバカバカしく、そしてアホらしい。
森奈津子作品らしく、ゲイに対する差別にはきっぱりと反対しつつ、
ゲイとして生きる難しさをどこかユーモラスに、コミカルに描くのは、さすがの手練だ。


名匠ルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」の設定を用いた、
「実験台のエレベーター −−カミングアウトのお作法とは?」は、
エレベーターの中、という閉鎖空間で、
3人の少年がカミングアウトの瞬間を迎える、というお話。
こちらもゲイに対する偏見をチクリと風刺しつつも、テイストはバカ一直線。
何とも力の抜けるオチも、いい感じに味わい深い。


山田風太郎原作の「魔界転生」をもじった「マゾ界転生」は、一種のタイムトラベルもの。
冷凍睡眠から目覚めた角田炎也が出くわしたのは、マゾの青年と不思議な霊能術師…というお話。
あとがきによれば「西城秀樹のおかげです (ハヤカワ文庫 JA)」収録の「哀愁の女主人、情熱の女奴隷」の姉妹編とか。
げにも哀しきはマゾヒストか、それとも…。なかなかに深い命題でもあったりする。


表題作「踊るギムナジウム」は、萩尾望都へのオマージュだとか。(怒られないのか?)
植民惑星グレーテの第9王子、トニオが送られた、惑星<青薔薇>の全寮制ギムナジウム
そこは、ミュージカルを通して本音と建て前を使い分ける、ヘンな場所だった−
読んでいるだけで、そのバカバカしさに脱力してしまう、そんな味わいの中編だ。


大傑作「西城秀樹〜」などと比べると、エロもギャグもいまいちパンチ不足の感は否めない。
(もっとも、ホモ描写は個人的に勘弁なのだが…)
それでも、森奈津子らしい〝くっだらなさ〟には満ちた短編集。
あとがきで作者が希望している通り「阿呆な話だなぁ」と、
カカカカと笑って読むのがよろしいのではないかと思う、1冊ではあった。



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踊るギムナジウム
森 奈津子著
徳間書店 (2006.12)
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