マイクル・コナリー「ザ・ポエット〈上〉 (扶桑社ミステリー)」「ザ・ポエット〈下〉 (扶桑社ミステリー)」
〝エドガー賞受賞の鬼才、
マイクル・コナリーが犯罪小説の極北に挑む野心作〟
このところ読み進めている、ハリー・ボッシュのシリーズを離れ、
ノンシリーズ(あとで関わってくるらしいが…)の傑作を読む。
デンヴァーの地元紙「ロッキー・マウンテン・ニューズ」の記者、
ジャック・マカヴォイのもとに舞い込んだ、突然の報せ。
それは、双子の兄で、デンヴァー市警殺人課に務めるショーンの自殺。
「ホワイト・ダリア」とも称される殺人事件をめぐり、
思い悩んでいたというショーンの周辺を探るうちに、ジャックはある不審を抱く。
やがて浮上する「ザ・ポエット(詩人)」という名の連続殺人犯。
エドガー・アラン・ポオの詩を引用する、シリアル・キラーにジャックはたどり着けるのか−
いや、とにもかくにも凄い作品だ。
これまで読んだことがなかったことを、こころより恥じたい。
主人公ジャックの魅惑的なキャラクター設定に巧妙なミス・ディレクション、
そしてスピーディーで緊迫感あふれるストーリー展開…
〝犯罪小説の極北〟とはよくいったものである。
謎に包まれた序盤から、一気の展開を見せる後半、そして深い余韻を残すラスト。
さすがコナリー、と(ホントいまさらながら)唸るしかない、まさに傑作だ。
〝死はわが職業である。わたしは死によって生計を立てている。〟
新聞記者として、殺人関連の特集ものを担当する、ジャックの生業でもある〝死〟。
だが、新たにその〝死〟に魅入られたのは、双子の兄のショーンだった。
距離を保つことこそ、その秘訣と説くジャックにとっては、容赦のない皮肉でもある。
そして、その死を見つめる中で、ジャックはあることを悟らされる。
〝わたしは死について自分がなにか心得ていると思っていた。
悪徳についてなにか知っていると思っていた。だが、わたしは何も知らなかったのだ。〟
ポオの詩を引用しながら、次々と犠牲者を血祭りにあげていく「詩人」。
その実像に迫ろうとするジャックの脇を、あざ笑うかのようにすり抜けていく。
ジャック、そしてFBIの捜査はフロリダからデンヴァー、そしてLAへ。
杳として知れない、「詩人」の目的、そして足どりを追う、そのスリリングな展開は、
読む者をまさに捜査の真っただ中にたたき込むような感触すら抱かせる。
コナリーらしい、艶のあるロマンスの要素に加え、
ハリー・ボッシュ・シリーズの登場人物も顔を出すなど、サービス精神も十分。
何度も繰り返しになるが、どこをとっても「さすが」としかいいようのない作品に仕上がっている。
ハリー・ボッシュのシリーズでもある、
「天使と罪の街(上) (講談社文庫)」「天使と罪の街(下) (講談社文庫)」は、この作品の続編にも当たるという。
たどり着くにはまだちょっとかかりそうだが、いまから楽しみでならない。
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