レスリー・デンディ、メル・ボーリング「自分の体で実験したい―命がけの科学者列伝」

mike-cat2007-03-04



〝勇気か、科学への愛か
 時には「死を賭す」危険も顧みず、
 自分の体で試すことを決意した
 科学者・医学者たちの涙ぐましい物語。〟

  • 100度を越す高温部屋でどれだけ耐えられるか
  • パンや肉を袋や木の筒に入れて丸呑みする消化実験
  • 「笑うガス」を吸った歯科医たち
  • 「死の病」を媒介する蚊が自分の腕を刺すのを待つ男
  • 夜中、ラジウムが緑青色を発するのを見つめる夫妻
  • 炭坑や海中で「悪い」空気を吸い続ける親子 ………

本のタイトル通り、自らの体を用いて、
危険な科学・医学実験に挑んだ偉大な先人たちの10の物語だ。


「あぶり焼きになった英国紳士たち」から始まる10の実験は、
人間の体の耐性や恒常性、食べ物の消化のシステムの解明に、
麻酔の発明、死の病の感染経路の特定や、放射線治療の確立など、
現代の生活には欠かせない、さまざまな発明や発見に寄与したものばかり。
時に思うような結果を出せなかった実験も取り上げられるが、
そうした失敗もあってこそ、次の成功がもたらされることも多い。
危険を顧みず、自分の体を投げ出す勇気(時には蛮勇)をたたえるしかない。
いわゆる偉人伝ではあるのだが、
やはりその業績に達するまでの道のりには、凄みを感じてしまう。


その偉大さが、同時代に認められる例は数少ないという。
心臓カテーテルを実用化したドイツの医学者ヴェルナー・フォルスマンが、
実験当時は「サーカスの曲芸」と揶揄されていたように、
だれもが嘲笑にさらされ、誤解を受けながら、それでも信じる道を突き進んだ。
(まあ実際のところ、こうした偉大な人物たちの陰に、
 数倍、数十倍の、笑われても仕方がない人たちがいたのも確かなはずだが…)
偉大な業績の一方で、生きている間は、
そうした皮肉な運命を享受した人たちの物語は、微妙に哀しさも感じさせるが、
その後の技術の発展をみれば、その苦労も報われたというものだろう。


本そのものの構成としては、ちょっとジュニア向けっぽい印象が強い。
読んでいて、何となく勉強させられているような感覚を覚えることもしばしば。
似たような内容に「人間はどこまで耐えられるのか」という本があったが、
あちらと比べると、取り上げる実験や人物、構成ともグッと〝真面目〟だ。
とはいえ、これはこれでなかなかに興味深い本であることは確か。
1冊だけ読むなら、読み物としての面白さや実験の多様さなどで、
どうしても「人間はどこまで耐えられるのか」に軍配が上がるが、
興味を覚えたので、もう一冊読みたい、と思ったら、ぜひこの本をお勧めしたい。


Amazon.co.jp自分の体で実験したい―命がけの科学者列伝


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自分の体で実験したい
レスリー・デンディ〔著〕 / メル・ボーリング〔著〕 / C.B.モーダンイラスト / 梶山 あゆみ訳
紀伊国屋書店 (2007.2)
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