ジャンリーコ・カロフィーリオ「無意識の証人 (文春文庫)」

mike-cat2007-02-17



文春文庫の新刊「眼を閉じて (文春文庫)」を購入し、
読もうと思ったら、シリーズ第2弾、とある。
そりゃ、第1弾から読まねば、と手に取る。
なかなか馴染みのない、イタリア発の法廷スリラー。
ジェフリー・ディーヴァーが、
 「最良の法廷スリラー」と評した見事な論証〟
そう聞いたら、もういてもたってもいられない。


アドリア海を臨むイタリア南部の街バーリ
妻に逃げられ、鬱病寸前の弁護士、グイード・グエッリエーリのもとに1件の依頼が舞い込む。
被告はセネガル出身の行商人、アブドゥ・ティアム。
かけられた嫌疑は、少年の誘拐、不法監禁と殺人だった。
アリバイなし、証人あり、アフリカ人差別に違法な商売…
圧倒的不利な状況の中、弁護に乗り出したグイードは次第に精気を取り戻すのだが−


物語の舞台はイタリア、ということで、
イタリアっぽさを期待してしまうと、だいぶ裏切られる部分は多い。
裁判官や陪審員の数こそ違えど、裁判の基本的なスタイルは同じ感じだ。
イタリア人だからといって、何となくラテンな裁判があるわけでもないし、
独特の裁判制度で読ませる、という部分が特にあるわけでもない。
地名と人名を半分ぐらいアメリカ人っぽくすれば、
イタリア系の人間が多い裁判ぐらいにしか思わないかもしれない。


だが、そんなイタリアっぽさへの期待感を忘れてしまえば、
この法廷スリラー、なかなか楽しめるクオリティに仕上がっている。
最大の争点となるのは、証言の信憑性というか、確かさの議論。
これについては、実際の裁判ではそううまくいかないだろう、とは思うのだが、
あくまで物語の世界の正論、としてとらえると、十分納得のいく論証だ。
贅沢をいうなら、もう展開的にひと波乱くらいあると、
もっと盛り上がるかな、とも思うのだが、
そこらへんは超絶ボリュームの法廷スリラーが大好きな、
あくまで個人的な趣味にもよる理由なので、あまり追及はしないでおく。
逆にいえば、周辺事情の描写も少ないことと合わせ、
ミニマリズムのよさ、という部分もあるだろうし…


そうした最小限の描写の一方で、
鬱病寸前の弁護士グイードの再生については、きちんと行数が割かれている。
わざとらしい感動ドラマはないが、
さりげなく、そしてすっきりと描かれている分、こころには食い込んでくる。
物語の最後で、元妻サーラがグイードにかける言葉が印象的だ。
自分を取り戻し、妻に謝罪したグイードに、こう語る。
「今夜、あなたは私を自由にしてくれた。私に思い出を返してくれた」
壊れた結婚生活はもう戻らない。
でも、よかった頃の思い出は、もう汚されたままではない。
この爽やかな感動に、思わずグッときてしまった。


こうなると、第2弾もなかなか楽しみだ。
日に日に厚さを増すばかりの積ん読本の中で、
どこまで優先順位を上げられるかはわからないが、
早く続編を読みたいな、とは思うのだった。


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