有川浩「海の底」

海の底
〝春、寧日。
 天気晴朗なれど、波の下には不穏があった。〟
図書館戦争」シリーズの有川浩による2005年度作品。
これまで気になりつつも何となく読んでなかったのだが、
スピンオフ2編が収録された「クジラの彼」で、
あらためて読んでみなければ、と手に取った次第。


春の桜祭りににぎわう、米軍横須賀基地に突然の警報が鳴り響く。
それは、予想だにしない襲撃。
信じられない数の巨大甲殻類は、見物客を切り刻み、喰い漁る。
最新鋭のおやしお型潜水艦「きりしお」の乗員、夏木・冬原両三尉は、
13人の子どもをかくまい、「きりしお」に逃げ込んだが…


ザリガニ大襲来! である。
最初は思わず、笑ってしまう。
だが、有川浩は、これだけベタな設定を、堂々のエンタテインメントに仕立て上げる。
あとがきによれば〝潜水艦で十五少年漂流記〟。
そう、怪物退治のパニックもの+海自&警察のポリティカルな要素に、
閉じ込められた少女・少年の成長物語をミックスさせた、
見事なパニック・アドベンチャー超大作なのである。


対ザリガニ作戦は、いきなり自衛隊が出動で解決、とはならない。
まずは警察・機動隊の出番。
当然歯が立たない。だが、それでも自衛隊は出てこない。
警察官僚と防衛庁の縄張り争いに責任のなすり合い、
政府・内閣の優柔不断さに米軍との駆け引きまで加わり、
ザリガニは一向に退治されない、という、まことにじれったくも面白い展開。


「きりしお」船内に目を向けてみれば、
夏木・冬原に降りかかる突然の悲劇あり、
こころに傷を抱えた姉弟あり、甘えたクソガキあり、とこちらもドラマが盛りだくさん。
特に「こんなガキ、ザリガニに喰われてしまえ」的なガキには、
読んでいるだけでものすごく苛立たされるのだが、
それはそれで巧く描かれているので、ドラマとしては楽しめる。
(「ザリガニに喰われて〜」は読みながら100回くらい思ったが…)


そんな絶妙の焦らしに息を呑みつつ読み進めると、
警察官僚の中にも味のある脇役が登場したり、
子どもたちの成長に思わずグッときてしまったり、と中盤以降カタルシスの宝庫。
「クジラの彼」での夏木&冬原の様子を想い出しつつ、
その圧倒的なドラマに呑み込まれていくのが、まことに心地いい。
図書館戦争」シリーズも「クジラの彼」も好きな作品だが、
間違いなくいままで読んだ有川作品の中で、最高傑作と呼びたい面白さだ。
(いまさら、だとは思うけど…)
最高の満足感を胸に、また「クジラの彼」を読み直したくなったのだった。


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海の底
海の底
posted with 簡単リンクくん at 2007. 2.15
有川 浩著
メディアワークス (2005.6)
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