TOHOシネマズなんばで「硫黄島からの手紙」

mike-cat2007-02-16



ゴールデングローブ賞では外国語作品賞受賞、
発表の迫るアカデミー賞では作品・監督など、
4部門でノミネートを受けた、クリント・イーストウッドによる、
「父親たちの星条旗」との硫黄島2部作完結編。
〝嵐〟の二宮某がどうも好きになれず、
昨年12月9日の公開以来、観ようか観まいか悩んでいた1本。
とはいえ、アカデミー賞発表も近づいたし、
通常料金でプレミアスクリーン上映だったので、決意を固める。


太平洋戦争の戦況が、厳しくなるばかりの1944年6月。
日本軍の拠点でもある硫黄島に、栗林忠道中将が降り立った。
米国留学経験を持つ栗林は、無闇な精神論が幅を効かせる部隊を、
合理精神で改革していく一方、一部兵士からは大いなる反感を買っていた。
圧倒的な戦力を誇る米軍上陸を前に、補給もままならない部隊は、
トンネルを掘ってのゲリラ戦で、最後の一戦に備えようとしたが…


栗林忠道が我が子に向けて綴った「「玉砕総指揮官」の絵手紙 (小学館文庫)」をもとに、
オスカー監督にして脚本家のポール・ハギスが原案を担当。
日系2世のアイリス・ヤマシタによる脚本で、日本軍から見た硫黄島戦を再現。
父親たちの星条旗」と同様、イーストウッド監督以下、撮影スタッフも同じくで、
重厚感あふれる陰翳がまじる硫黄島の激戦は、ひたすらに重くのしかかる。


戦争の抱える矛盾や欺瞞、そしてバカバカしさはもう言うまでもないだろう。
亡くなった方おひとりおひとりを冒涜するつもりは一切ないが、
日本軍総体としては、ムダ死に大好きバンザイ軍団には、虚しさしか感じない。
ただ、その一方で、アメリカナイズドされた栗林忠道だけが正しかった、
みたいな視点でいまさらあの戦争、あの硫黄島戦を斬るのは微妙に違和感も残る。
もちろん、栗林とて、サムライとして最終的には玉砕、自決の道をたどったのだから、
単なる栗林賛歌でないことは重々承知の上ではある。
第一に基本的には史実に基づく物語なので、あまり極端な創作もできないだろうし。


ただ、あの戦争の虚しさを間接的ながら当の敗戦国の一員として知り、
当時の日本人のメンタリティのバカバカしさを教訓に感じる立場としては、
あまり目新しい、であるとか、斬新であるという印象は受けない。
あくまで、外国人、それもアメリカ人の立場からこれが製作された、ということが斬新なのに過ぎない。
あくまで第3者的な立場で見れば、
父親たちの星条旗」の方が重層的なドラマを描いていたような気もするが、
アメリカ人にとっては、あの恐るべき〝ジャップ〟の、
本当の姿を描いた映画なのだから、かなりの衝撃もあるのだろうし、
アカデミー賞などで高評価を得ているというのも、まあ納得はいく。


心配していた〝嵐〟くんだが、
ジャニーズのアイドルにしてはまずまずなのではないだろうか。
元来の拗ねた顔つきもそのまんまに、何だか不満な一兵卒を演じる。
言葉遣いはどう考えても60年前の青年とは思えないし、
非常にレパートリーの少ない表情も、あまり長時間見せられるとげんなりする。
だが、それが気に障るのも、演技をしなければいけない序盤くらい。
実際の戦闘が始まってしまうと、ドラマそのものの重厚感に隠れてさほど気にならない。
終盤に近づいてくれば、何とか生き抜いて欲しいという気持ちも出てくるし、
それなりにシンパシーも感じられるようになってくる。


中村獅童はともかく、渡辺謙伊原剛志といった面々も存在感は十分。
日本映画とは少々違う演技スタイルを強いられている面もあるのだろうが、
さすが、と思わせる場面は多々あったように思える。
しかし、全般的にはもう少し、バリバリの皇軍兵士っぽいのがいてもよかった気もする。
実際、あの戦争の責任は、ファシズムに荷担した国民一人一人にもあったはず。
この作品の中では、戦争に懐疑的な兵士が少々多すぎるのではないだろうか。


イーストウッドの演出にも、違和感を感じた部分はいくつかある。
一番印象的なのは、2005年の硫黄島でのラストの場面。
発掘隊が地中に埋められた手紙の袋を発見し、地面にばらまくところだ。
映像的には強いイメージを残すことはできるが、ちょっとやり過ぎだろう。
徹底したリアリズムを求めるつもりもないが、これは演出に溺れたと思う。


全体的には、日本軍から見た硫黄島戦、という斬新さ以外は、
イーストウッド作品としては平均的な出来、ではないかというのが正直なところ。
ほかのアカデミー作品賞候補でいえば、
少なくとも「ディパーテッド」「リトル・ミス・サンシャイン」には及ばないし、
未公開の「バベル」「ドリームガールズ」にも、前評判から考えてかなうはずもないかな、と。
3カ月近く避け続けるほど悪い作品じゃないが、まあ騒ぐほどの作品でもない。
不満でもないけど、満足することも特にない、個人的にはそんな映画だった。