町山智浩「性教育の名のもとに推進される〝文化の転換〟」:「論座 2007年 03月号 [雑誌]」掲載

論座 2007年 03月号 [雑誌]

論座 2007年 03月号 [雑誌]

町山智浩氏のブログで紹介された、
町山氏執筆の記事「北米セックス禁止令、避妊も禁止の性教育!」が気になり、
買ったこともないジャンルの雑誌に手を出してみる。
ジャンル的にはオピニオン誌、とでもいうのだろうか。
版元によってずいぶん色も違うし、雑誌によっては極端な思想の偏りもかなりある。
ちなみに「論座」の発行元は朝日新聞社
目次を眺めると、〝「人文書」の復興を!〟とか〝医学部と医療崩壊〟とか、
思想面で比較的偏りづらい(?)特集がズラリ並んでいるので、なかなか楽しめる。


で、町山氏の記事は〝特集/性教育のススメ〟のトップ記事。
アメリカでブッシュ大統領が推し進める「絶対禁欲教育」の弊害について取り上げたもの。
この「絶対禁欲教育」というのがくせ者で、婚外の性交渉がもたらすデメリット以外何も教えない。
つまり、避妊について、性病予防については一切教えない。
何せ、禁欲だから教える必要がない、といってしまえばそれまでだが、まことに無責任なやり口だという。


もともとは10代の妊娠率低下や、性病予防を名目に推し進められたこの「教育」。
支持派は妊娠率低下などで効果は現れている、としているが、
その裏に隠されたカラクリについて、町山氏は切り込んでいる。
10代の妊娠率低下は、「絶対禁欲教育」によるものではなく、
若者雑誌やMTV、インターネットでのキャンペーンなど、
避妊も含めた「包括的性教育」が公教育以外の部分で行われている点を指摘。
さらには「絶対禁欲教育」しか受けていない層が、
純潔を守るためにアナルやオーラルのセックスに走ってみたり、
避妊の知識の欠如や誤解から、望まない妊娠をしたり、という事態にも陥っているという。


さらに、その「絶対禁欲教育」が若者の性を守るためではないことも合わせて指摘する。
こうした「教育」にまつわる巨額の援助金が、
ブッシュの強力な支持基盤でもある、キリスト教保守勢力「福音派」へ流入していることや、
こうした問題が、最終的に「文化の転換」を目的にした政治の道具として扱われていること。
根本の問題であるはずの格差社会や貧困などの解決が、置き去りにされていること。
そのねじ曲がったやり口は、別の国のことと割り切るには少々重すぎる問題だ。


翻ってみると、多少強引な論法にはなるが、
美しい国」とかを抽象的な善を説くどこかの国の為政者も、
こうしたカラクリをどこでどう使ってくるのか、とことん油断がならない気がする。
「純潔」や「自尊心」など美辞麗句を用い、人々の裏をかいた挙げ句、
都合のいい事実だけを巧みに用いて、その架空の〝効用〟を喧伝する。
まあ、いってみれば為政者の常套手段ではあるが、
やはり注意して見守らなければならない、とあらためて考えさせられる。


そのほかの記事も、たまに読んでみるとなかなか興味深いものが多い。
ちょっと気分転換に、にはややヘビーかもしれないが、
興味がおありの方には、ぜひ読んで頂きたいな、と思うのだった。


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