森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」

mike-cat2007-02-10



ひよこ豆のように小さな乙女の冒険
 とびきりキュートな恋愛小説!!〟
本屋大賞ノミネートをはじめ、各方面で大評判の1冊。
オビでは大森望豊崎由美が大絶賛。
〝大傑作。文句なしにことしの恋愛小説ナンバーワン〟
〝大変愛らしゅうございますの。〟
これは読まねば、ということで遅ればせながら読んでみる。


大学の同じクラブに所属する〝私〟と〝彼女〟
ひよこ豆のような黒髪の乙女に、恋心を抱く〝私〟。
でも、〝彼女〟に思いを告げるどころか、誘うことすらままならない。
夜の木屋町先斗町下鴨神社の古本市、百万遍界隈での学園祭…
魑魅魍魎に彩られた、不思議な京都の街を舞台に、
無邪気に駆け回る乙女と〝私〟のすれ違い、そして秘めやかな恋。


冒頭の「夜は短し歩けよ乙女」を読み始めてすぐ、評判の理由がよくわかった。
猛烈に面白い。
ファンタジックでロマンティック、それでいてスラプスティック
彼女と〝私〟が、不思議な出来事に出逢いながら、
(それも別々に)夜の木屋町先斗町を彷徨い歩く。
その名の通り、唐代の詩仙を思わせる李白が登場したり、
(そのまんま〝一杯一杯又一杯〟などと口にしたりする)
自称天狗の樋口さんが、摩訶不思議な〝芸〟をしてみたり…
高橋留美子「うる星やつら」や、ゆうきまさみ「究極超人あ〜る」
もっとも面白かった時代を彷彿とさせる、圧倒的なパワーで突き進んでいく。


あの界隈の馴染みの風景を思い起こす。
そこに浮かび上がる、登場人物たちの姿、そしてヘンな花電車。
ありえないはず。でも、意外と本当にありそうな気がして思わずニヤリとしてしまう。


第二章「深海魚たち」で描かれるのは、
下鴨神社の古本市で繰り広げられる、まさかの大食い大会。
幼い頃に親しみ、いつの間にかなくなってしまった絵本への郷愁も相まって、
ドタバタと胸キュンが絶妙のバランスを醸し出している。
第三章「ご都合主義者かく語りき」は、
学園祭に跳梁跋扈する、謎の「韋駄天コタツ」とゲリラ演劇「偏屈王」が最高におかしい。
そして大団円の第四章「魔風邪恋風邪」で描かれるのは、
京都の街に、まるで竜巻のように吹き荒れる、たちの悪い風邪の大流行。
物語の登場人物すべてを巻き込んだ大騒動の末、たどりつく結末がひたすら愛おしい。


第一章の「夜は短し〜」の印象が強烈すぎて、
それ以降が後日譚のようにも感じられてしまうのが残念な部分はあるが、
逆にいえば、それだけ表題作の完成度が高い、ということもいえるだろう。
映像化は難しいだろうが、映画とかにしてみても面白そうな大傑作。
また近々、もう一度味わってみたい、楽しい不思議世界の体験だった。


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夜は短し歩けよ乙女
森見 登美彦著
角川書店 (2006.11)
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