マイクル・コナリー「チェイシング・リリー (ハヤカワ・ミステリ文庫)」

mike-cat2007-02-09



〝「リリーはいるか?」一本の間違い電話をきっかけに
 男は抜き差しならぬ深みにはまりこんでいった。〟
2003年刊のハードボイルド・サスペンスが文庫化。
〝「マイクル・コナリーは驚異の作家だ。
  いつも意外な展開に唸らされる」典厩五郎/本書解説より〟
ハズレのないことで知られるコナリーによる話題作。


とはいえ、クリントイーストウッド監督・主演で「ブラッド・ワーク」として映画化された、
わが心臓の痛み」以来約7年ぶりに読むコナリー作品となってしまった。
「わが心臓の痛み」はとても面白かったのだが、
その後ハッと気づいたらハリー・ボッシュのシリーズとかがバンバン出ていて、
何だかついていけなくなってしまったという次第。
しかし、この「チェイシング・リリー」は基本的にノン・シリーズ。
それならパッと入れそうだな、ということで手を出してみる。


ヘンリー・ピアスは西海岸、サンタモニカに本拠を置くベンチャー企業の起業者。
自らナノテクの学者として陣頭指揮を執るピアスだが、
研究に忙殺され、私生活では恋人ニコールと破局したばかり。
ニコールの下を離れ、引っ越した先にピアスに、1本の電話が入る。
「リリーはいるか?」
その電話番号は、ネットで評判のエスコート嬢が使っていた番号だった。
ついついリリーの行方を捜し始めたピアスだが、
失踪した彼女の周辺には、とんだトラブルが待ち構えていた−


1本の間違い電話から始まる物語は、
絶妙の緊張感と、魅惑的な謎に包まれ、一気に展開していく。
体裁としてはいわゆるハードボイルドの探偵ものではあるのだが、
主人公は、ナノテクのベンチャー企業の研究者にして社長、
革命的な発明の特許出願を控え、出資企業を探しているという立場でもある。
破れかぶれなだけでは通用しない、微妙なバランス感覚もその緊張感をあおり立てる。


恋人がいるうちはラボに籠もりっきりだったピアス。
だが、ニコールを失って初めて、気持ちの変化に気づく。
〝この三年間で初めて、ラボの外の関心事に妨げられず、好きに仕事ができる。
 それなのに、この三年間で初めて、仕事をしたくなかった。〟
この皮肉な状況。
そんなピアスが、ひょんなつながりのエスコート嬢探しのため、外の世界に足を踏み出す。
そこに隠されたピアスの思い出、そして秘密…
そうしたドラマも、物語の厚みを二層三層と積み重ねていくことになる。


LAを舞台にした物語の中では、キューブリックの名作「博士の異常な愛情」や、
コーエン兄弟の初期作品「ミラーズ・クロッシング」など、
数々の映画のセリフも小道具として使われ、スタイリッシュな風合いをもたらす。
そうした点でも、コナリーのスタイルが貫かれた作品なのかもしれない。
しばらく遠ざかっていたコナリー作品だが、ボッシュのシリーズも含め、
また読み始めてみようかな、と思ってしまう、面白い作品だった。


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チェイシング・リリー
マイクル・コナリー著 / 古沢 嘉通訳 / 三角 和代訳
早川書房 (2007.1)
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