伊坂幸太郎「フィッシュストーリー」

mike-cat2007-02-03



〝「なあ、この曲はちゃんと誰かに届いてるのかよ?」
 売れないロックバンドが
 最後のレコーディングで叫んだ声が、
 時空を越えて奇蹟を起こす。〟
〝a story〟のサブイタイトルがついた、
伊坂幸太郎の最新作は、4編による短編集だ。
デビュー第一編の「動物園のエンジン」から、
サクリファイス」「フィッシュストーリー」、
そして、最新書き下ろしの「ポテチ」まで。
〝小気味よい会話と伏線の妙が冴える伊坂ワールドの饗宴。〟


伊坂幸太郎お得意の、物語内外に張られた微妙なリンクもある。
表題作「フィッシュ・ストーリー」はまさにその典型ともいえそう。
ちなみにこの本、「あの小説のあの脇役が…」というのもひとつのウリらしい。
目を凝らして読んでみるが、どうにもよくわからない。
調べてみたら、当の「ラッシュライフ (新潮文庫)」を読んでいなかったりする。
既読の人はさぞかし、ニヤリとしつつ読んでいるのだろうな、と勝手に想像。


「動物園のエンジン」は、
深夜の動物園にひとり寝そべる〝動物園のエンジン〟と呼ばれる男をめぐる物語。
動物たちに活気を与える彼が抱えた秘密はいったい何なのか。
独特の静謐さに、人生の無情をスパイスとしてまぶしたようなストーリーだ。


サクリファイス」は、
例の「ラッシュライフ」に登場する(らしい)、変わった空き巣の黒澤が主役。
ある男を捜し、訪れた、宮城と山形の県境にあるひなびた村。
そこには「こもり様」といわれる、古くからの生け贄の風習が残っていた、という話。
どこか、というかまるまる人を喰った黒澤と、一筋縄ではいかない村の連中との会話が楽しい。


伊坂流ほら話(=フィッシュ・ストーリー)の表題作は、
前述の通り、ひとつの歌でつながる4つの。
「僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない」
昔の小説を引用した歌詞の、売れないロックバンドの最後の曲をめぐり、
20数年前、現在、30数年前、10年後の世界が入り交じる。
伊坂幸太郎らしい〝正義論〟を横軸にしつつ、
ちょっと大げさで、ちょっとロマンチック、ちょっと切なくて、かなり粋な物語が展開される。


「ポテチ」では、
再び例の黒澤が登場、あるプロ野球選手と、マイペースの空き巣の人生の交差点を描く。
書いてみて気づいたが、交差点とかってやると、まるで島耕作の作者みたい…
しかし、弘兼憲史的な臭さとはかなり違う、泣かせるがクサくない物語。
ラストの詩的な情景描写が、何とも美しく、そして心地よい余韻を残してくれる。


以上、いかにも伊坂幸太郎らしい世界を満喫できる4編。
ミステリー仕立ての物語はどれも、多少の強引さが目立つが、
その強引さも伊坂幸太郎の味だったりするので、また愉し、というところか。
もっと読み続けたい心地よさに浸りつつ、本を閉じる。
いまさらながら、「ラッシュライフ」も読んでおかないと、と心に刻み込んだ。


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フィッシュストーリー
伊坂 幸太郎著
新潮社 (2007.1)
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