道尾秀介「シャドウ (ミステリ・フロンティア)」

mike-cat2007-01-28



このミス国内編第3位、週刊文春国内編10位。
〝「向日葵の咲かない夏」の俊英が放つ巧緻な本格ミステリ!〟
話題の1冊をようやく読んでみることにする。


我茂洋一郎と水城徹、その妻、我茂咲枝と水城恵、我茂鳳介と水城亜紀。
いずれも同級生同士という、強い絆に結ばれたふたるの家族。
癌による咲枝の死をきっかけに、すべてが崩壊していく。
幻覚と妄想に導かれ、たどりついた、忌まわしい秘密とは…


かつて歴史的名作「羊たちの沈黙 (新潮文庫)」で大ブームを巻き起こしたものの、
最近めっきり姿を消した、サイコ・サスペンスの流れを汲むミステリである。
小学生の鳳介の悩まされる幻覚が、こんな塩梅で登場する。
〝汗ばんだ二つの肉体。目の前の格子。
 こちらをのぞいている男の子。自分が持った四角い瓶。よくないものの入った瓶−〟
いかにも思わせぶりなイメージである。
ほかにも確証バイアス、投影といった精神医学の専門用語を巧みに織り込み、
知識ものとしての楽しみだけでなく、物語や謎の膨らみを増していく。
あのブームの頃ならまあ多少食傷気味にも感じられただろうが
久しぶりのサイコものとあって、なかなかに新鮮な印象を受ける。


醜い鳥が苦闘の挙げ句、最後に幸せをつかむ、
という、宮沢賢治の「よだかの星」のエピソードもなかなかうまい。
その幸せは、〝本当の幸せなのか〟という問い掛けは、
思わせぶりに過ぎる感はあるが、上手にストーリーに奥行きを与えていると思う。


時間の流れを前後に揺り動かしつつも、ストーリーの展開はスマートだ。
深まる謎に取り込まれていくのがなかなかに心地いい。
意外すぎる結末、とまではいかないが、終盤のひねりもいい。
なるほど、あとから考えると、うまく伏線を張っているし、
こねくり回し的な理屈づけもないので、すっきりとした気持ちで最後まで読み切れる。
もちろん、すべてがいい話なわけでもないので、
読後感は最高とは言い難いが、なるほお多くの支持を受ける作品であることがよくわかる。
遅れてきたサイコサスペンスの佳作、といったところか。
以前そのテの本を読みふけったクチだけに、うれしい感触の1冊だった。


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シャドウ
シャドウ
posted with 簡単リンクくん at 2007. 1.24
道尾 秀介著
東京創元社 (2006.9)
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