瀬戸良枝「幻をなぐる」

mike-cat2007-01-21



〝理想の男との“奇跡のセックス”の後、
 待っていたのは……。
 奴を忘れるために、
 中川は肉体を鍛えはじめた。〟
第30回すばる文学賞受賞作、である。
〝きれいごとばかりの恋愛小説に
 飽きた人へおくる妄執まみれの失恋克服記〟


主人公は、子供の頃から不器用な女、中川。
〝煩悶する。〟で始まる物語では、
〝己が大いに好意を寄せている事物に対して、
 その感情とはまったく相反する行動をとってしまっては、
 要りようのない後悔をしてきた〟中川の、
その典型ともいえる、不器用な生き様そのものが描かれる。


〝無邪気で能天気で豪快で磊落で軽率で色情狂で嘘つき〟の奴。
でも、その奴との最高の〝奇跡のセックス〟が忘れられない。
うずきを抑える手慰みも、あまり効果は得られない。
ワークアウトに耽溺し、何もかもを忘れる以外、奴を消す手段はなかった。


ということで、官能と苦悩の物語なのだが、どうにもノれない小説だった。
序盤はまずまずの出だしだ。
「これは奇跡かもしれない」
「これは愛に違いない」
そう信じたはずの、奇跡の再会、そしてその〝出来事〟。
〝芽吹いたばかりの青草を噛んだときの、若い苦味が広がる〟場面など、
なかなかにディープで(個人的には体験したくないが…)悪くない。


だが、妄想がエスカレートしていく中盤以降、
その突飛さや、脈絡のなさに、ついていけなくなってしまった。
ブンガク的には、もしかしたら何かあるのだろうけれど、
僕程度の読解力では、それが何か読み取れないようだ。
もう一編の「鸚鵡」も同様だろうか。
気になるフレーズはちらほらと出てくるのだが、物語に入り込めない。
カバーを見た感じは、なかなかよさげだったんだけど…、
と、ただひたすら残念な気持ちで本を閉じたのだった。